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未来がずっと、ありますように  作者: おじぃ
はじめてのウエディングプランニング
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はじめてのお客さま、ご来店

 いよいよ、いよいよこの時が来てしまった!


 あと何時間、あと何分とカウントダウンを続け、とうとう私が担当する初めてのお客さまご来店当日です! 毎朝恒例の『いらっしゃいませ。ありがとうございます』などの接客訓練や開店準備の最中も緊張で頭が重くなり、鼓動が異常に速まって昇天しそうだった。


 お客さまの来店予定時刻は午前11時。現在は開店から20分後の10時20分でご来店まであと40分。先輩社員の接客を傍から眺めていると、私もあんな風にできるかな!? できるわけねぇっちゃ! だって私ド素人だし! と、プロ意識など何処かへ飛んで行ってしまってもうパニック状態。


 あぁどうしよう!? 新たな不安要素が! お客さまの前で東北(なま)りさ出ちまったら今度こそ沸騰して倒れちまう!


「いらっしゃいませ」


 薄いガラスの自動ドアが軽やかに開き、偶然付近を通り掛かった小百合さんが出入口の斜め左側に立ち、来店した男女を迎え入れた。


 うひゃあ、私のお客さまもう来ちゃった! まだ10時半! 約束11時!!


 左手首の腕時計を確認しながら右手の人差し指でそれをポンポンポンと叩きたくなってしまった。とはいえ時間に余裕を持ってご来店いただけるのは本来ありがたく、マナーの良いお客さまかなと少し安堵した。


 私も小百合さんに続き、心の準備をする間もなく出入口エントランスへ出向いて二人を迎え入れる。


「いぃるぁっしゃいませ!」


 噛んだ! 噛んじゃった! あぁどうしよう! いま絶対お客さまからも職場の人たちからも『あ、噛んだ』って思われた! あぁ、恥ずかしい。落ち着け! 落ち着け私!


 頭に血が上ってかゆくて掻きむしりたいけど、お客さまの前でそれはNG。


「おおおはようございますっ」


 お客さま方も酷く緊張しているようで、男性は私よりも呂律ろれつが回っていない。女性もモジモジしながら男性に続いて「よろしくお願いします」と目にも留まらぬ速さで会釈した。


 二人は年の差カップルで、アニメのタイトルロゴがローマ字でプリントされた黒いTシャツに青いチェックのアウターを羽織った男性は40歳、黒いミドルヘアで白いワンピース姿の女性は20歳だという。


 予め提出されたプロフィールシートの趣味欄には新郎新婦ともに『アニメ鑑賞』と記され、新郎は加えて『鉄道旅行』とある。いわゆるオタクカップルだ。


 アニメなら私も少しは……。でも私がにわかオタくらいの知識しかなかったとして、話題を振ったら逆に嫌われそう。Tシャツにプリントされてるアニメはタイトルしか知らないロボットモノで、仮に話題を振られてもわからない。どうしよう、私ってどれくらいサブカルに詳しいんだろう?


「あの、お二人はアニメがお好きとのことですが……」


 ですが、ですがですがっ!? 沈黙しているわけにはいかなくてとりあえず話を切り出してみたけど、その先を何も考えてなかった! こんなとき、先輩たちはどうしてるんだろう!?


「あっ、はい、そうなんです。僕たちアニメのオフ会で知り合ったんです」


 オフ会とは、同じ趣味や同じものに興味を持った人、または何らかの機会があって顔を合わせたものの普段は会えない気の合う人たちとの集まりのこと。趣味が合えば人見知りでも打ち解けは比較的早いだろう。


 さて次はどう返そう。アニメのタイトルを訊くか、そのアニメの魅力を訊くか。これは後者だ。魅力を訊けばアニメのタイトルを聞き出せる可能性は高いし、オタクの方なら好きなものに関しては長く喋ってくれるかも。その言葉の端々にお客さまの心を掴むきっかけがあるかも。


 かもかもと可能性を探ってばかりだけど、こうやって会話のキャッチボールを覚えてゆくしかない。それによく考えてみたら、やたらと軽いノリで喋る人よりこちらのカップルのほうがよほど接しやすい。私はラッキーなんだ。そう思い込もう。

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