静の時間
初めての、じぃちゃんがいないお正月。
両親が仕事でいないのはいつも通り。
これまでお正月といえば、じぃちゃんの仲間が居間で酒盛りをしていたけれど、今年そこでは私とばぁちゃんが静かにお茶を啜っている。
「酔いは冷めたかい? 未来ちゃん」
「うん、だいぶね」
居間に響くのは、ときどき喋る私とばぁちゃん、37インチテレビから流れる正月特番のバラエティー。コトコトコト、ストーブの稼働音と、たまに軋む家の音。
冬の東北に流れる空気は雪が降っていなくても白く澄んでいて、両手に息を吹きかけては白んだ空の一部になるそれを見上げる。バス停から家まで、私はそうして帰ってきた。
きっと今ごろ、外は牡丹雪が舞っているだろう。
じぃちゃんがいなくなって良かったというわけではないけれど、自分がいちばん落ち着ける場所での静かな時間は、私を私に帰してくれる。
こういう時間は、そういえばこれまであまりなかった。
じぃちゃんの仲間が集まっては、ばぁちゃんと私がせっせと酒と肴を用意して空いた器を片付ける。
それが済めば、お風呂に入って眠る。
そんな日が、ほとんどだった。
週末はといえば、長町の大型商業施設で一人もしくは都ちゃんと買い物や映画鑑賞をしたり、仙台市街で服を見たりアニメショップに付き合ってもらっていた。
そんなふうに、アクティブな日々を送っていた。
それもまた、偽りなき私の一面に違いないけれど。
ただこれまでは、静の時間が少なかっただけ。
独りぼっちではない、静の時間が。




