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未来がずっと、ありますように  作者: おじぃ
仙台帰省・宮城の旅9
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可能性は捨てなくていい

「はぁ……」


 色んなことを考えてしまって頭や肩が重い。いまの私はさぞ虚ろな目をしているだろう。


 やっぱり、本牧さんと一緒になりたいなぁ……。


 本牧さんと成城さんが付き合っているか、付き合っていなくても両想いなら私は失恋。


 成城さんが本牧さんを好きならば恋のライバルが出現。


 万が一にも私と本牧さんが付き合い、成城さんが本牧さんに好意を抱いているならば、私は成城さんの幸せを奪ってしまう。


 成城さんが本牧さんに好意を抱いていなければ何も問題はないけれど、それ意外のケースであれば誰かが傷付く。


 結婚生活、失恋の恐怖、略奪愛……。


 幸せになるって、深く考えるほどにつらい。それを突き詰めて考えてお客さまサービスに活かすのも、ウエディングプランナーの仕事の一つではあるのだけれど。


「どした?」


 仙台、国分町こくぶんちょうにある居酒屋チェーンのテーブル席、親友の歌津うたつみやこちゃんが見透かしたように言った。


 年が明けて元日、私は仙台に帰省していた。地元の友だち、都ちゃんと自棄酒やけざけをしているところ。


「好きな人がね、同じ駅の人と付き合ってるかもしれないんだ」


 中ジョッキ半分で酔いが回り始め、感傷的になって自然と俯き加減になる。黄金色の液体の中を上昇する二酸化炭素の気泡が、まもなく白い泡となるさまをじっとりした視線で追う。私には都ちゃんみたいに一気飲みなんて到底できない。


 泥酔すると本性が出るらしいから、気を付けなきゃ。


「そっか。未来は略奪愛なんかしたら自滅しそうだから、もし付き合ってるなら別れるのを待つか諦めたほうが無難だけど、その男はフリーで、女には別の恋人がいるかもしんないとして、問題はその先。未来はその人とどんくらい親しくなれたの?」


 お酒に強い都ちゃんはとうにビールを飲み干し、ウーロンハイ、スクリュードライバー、日本酒と、次々と異なるお酒を流し込んでいる。


 一杯目はとりあえずビールで、それ以降は飽きて別のお酒にシフトする都ちゃんの心理を限界効用逓減げんかいこうようていげん作用というらしい。駅の休憩室でお茶をしているときに皆さんの話題から習得した言葉。


 うちの会社でも朝比奈店長や小百合さんと一緒にランチをすると難しい言葉が頻繁に飛び交っていて、会話に付いて行けなくなる。


 それに気付いたふたりが私を気遣い、とても自然な流れでトレンディ―な会話を持ち込んでくれるのだけど、本牧さんと付き合うということは、つまり私が彼と対等関係になるということ。


 だからお子ちゃまなりにもそれなりの知識を蓄えて日常会話に支障が出ないようにしないと、本牧さんは言いたいことをわざわざ噛み砕いて説明しなければならず、知識足らずの私はそれに恐縮する。


 結果、お互いに気疲れしてしまう。正に以前、都ちゃんが破局に至った経緯と同じ状態になってしまう。


 そんなことを考えながら、私は次の一言を発している。


「えーと、よく考えると、仕事以外の関係はないような……」


「そっかー。でも未来は頭いいし、親しみやすいからモテると思う」


「えっ、頭は良くないよ!?」


「いやいやご謙遜を。未来って、色んなこと考えながら喋ってること多いでしょ。挙動不審になるのは相手を気遣うあまりに考えてることを言葉に変換しきれてないからだよね」


「いやいやいやっ、みんな色々考えながらくっちゃべってるべ! 私はバカだから挙動不審になったり噛んだりしちゃうだけ! それに周りの人より知識量全然ないし……」


「あー、だから、確かに普通の人も考えながら喋ってはいるけど、一瞬の間に考えたり気遣う度合いが未来は飛び抜けて多いんだと思う。知識がないのはまだ新社会人なんだからしょうがないよ。私だって苦労したけど、今ではニュースとか見るようにしてなんとか会話に付いて行けるようになったし」


 さすが社会人の先輩。『ガトーフレーズ』を知ってたのも、社会人として知識量を蓄えなきゃいけなくなったからかな。そういえば最近、帰宅が遅くてニュースをあまり見ていないかも。


「けど、何より大事なのは心を通わせること! 本当にその人と付き合いたいなら心がフィットするか、本能的に見極める! 他に好きな人とか付き合ってる人がいるとか、そういうのを確認したければ本人とかその彼と接点のある人に訊いてみるとかする! それでアウトだったらぐっさりくるし、好きな人もいない状態ならラッキーじゃん!」


「で、でも、クリスマスの山下公園でキスしてたし……」


「その場のノリってこともあるでしょ。私だってそういうのは何回かある。みんな未来みたいに好きな人としかしないってわけじゃない。刹那の寂しさを紛らわせるためのキスとかその先のこともよくある」


「そそそ、そうなのかな!? よくそういうの、漫画で見るけど、本当にあるのかな!?」


「私にはあるって言ってるじゃん」


「そ、そっか! まだ、可能性は捨てなくていいのかな!?」


「捨てなくていい。断言する。その代わり、傷付く覚悟は持つこと」


「う、うん……」


「その覚悟がないと、恋愛も仕事も人生も、何かが立ちはだかったらそこで終わりになっちゃうでしょ」


「う、うん、まぁ……」


「あれやこれや言っても、結局進むしかないんだよ、人生ってヤツは」


「そ、そっか、そうだね、うん、そうだ!」


 踏み切るまでが大変だし、踏み切ってからも大変だろうけど。


 でも、これからどうなるかはさておき、胸中を都ちゃんに打ち明けたら少し気分が軽くなった。


 進まなきゃ、私。


 肩の荷は重いけど、それでも。

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