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未来、結婚式の裏方を担当する!

 結婚式や披露宴には、お客さまの好みや予算などに応じ、その数だけのバリエーションがある。同じパーティーは2つとない。


 今回の結婚式はリーズナブルで和気あいあいとしたパーティー。フレンチなどの高級料理は出ないものの、新郎新婦が飲食店や農家、食品卸売業とのつながりがあり、パスタや肉類に新鮮野菜のサラダ、トマトソースを練り込んだフランスパン、ミニカップのアイスクリーム、ケーキやゼリーなど、予算の割には豪華な食べものが揃った。


 料理はバイキング形式で、会場の壁に沿って円周状に並べた。


 これまで私が携わった式では、料理はレストランやケータリング業者がすべて仕切ってくれていたけれど、今回は新郎新婦の知人から提供されている。


 彼らはこのようなパーティーに料理を提供することは基本的にはないため、配膳はいぜんは私たちルールーコーポレーションのスタッフが通常業務の片手間で担当するという、なかなかハードなシステム。


 ただしこれだけではとても式を回せないので、新郎新婦とつながりのある業者の人が更にその知人をボランティアで呼び集め、実施する運びとなった。


 こうして人手は確保しても、まだまだ式は穴だらけ。


 小道具の用意やステージのセッティングも苦労したけれど、手がかかったのは料理の仕分け。


 食べる人によってはアレルギー反応を起こす場合もあるので、普段は用意される料理にどのような材料が使用されているのかをレストランやケータリング業者から知らされる。


 しかし今回はそれがなく、特に5種類のフレーバーが用意されたアイスクリームでは、カップのふたは各種共通仕様、バニラ、ストロベリー、チーズなどのフレーバー名は側面に貼りつけられたラベルの上部に小さく印刷されているが、蓋のツバがそれを覆い隠していた。


 早朝の6時半の準備中、納入されたアイスクリームを確認した際それに気付いた小百合さんは、こんなこともあろうかと予め用意していた私物の小さなクーラーボックスに、フレーバーごとにアイスクリームを収納。お客さまが一目でフレーバーを見分けられるよう、A4コピー用紙にカラーペンでフレーバー名、バニラの花、ストロベリーの果実といったイラストを描いてクーラーボックスに貼りつけた。


 これ、私だったらお客さまに「これ何味?」と訊かれるまで何も策を取らなかったと思う。


 さすが小百合さん。昨夜、社有のミニバンを借りて帰宅したのはそういうことだったんだ。


「おーいこっち用意できてるから早く運べ!」


 厨房担当からの怒号が飛んできた。


「はっ、はいーっ!」


 私は厨房と宴会場をひたすら往復してトレーに乗った料理と済んだ皿を運ぶ担務に就いている。


 厨房に行くと新郎の友人と言う40代のいかつい男性や、その他男性スタッフがピリピリしながら冷蔵庫に保管していた料理を取り出し、メニューによっては電子レンジやオーブンで温めたりフライパンで火を通すなどして皿に盛りつけ、他方では別の、やはりいかつい20代後半の男性がせかせかと皿洗いをしている。


「早く済んだ皿持ってこい!」


「はいすみません!」


「口動かしてるヒマがあったらさっさと動け!」


「す、すみません!」


「いいから早く動け!」


 怒号を飛ばす40代の男性。こういう鬼気迫る雰囲気が、私はとても苦手。


 宴会場では新郎の知人であるプロのロックバンドやDJが場を盛り上げているけれど、私たちスタッフはそれを愉しんでいる暇などない。


 式が始まったのは11時のお昼時。お客さまはお腹を空かせて来場しているから、料理の減りが早い。とくにローストビーフは人気。


 現在13時で、式の終了予定時刻は15時。


 そこから後片付けがあり、スタッフの解散はおそらく17時を過ぎる。


 スタッフの会場入りは朝6時だったので、約半日をこの雰囲気の中で過ごすことになる。


 あぁ、忙しいのに時の流れが遅い……。


 目まぐるしさとスタッフ陣の気迫に、私は心身ともにくたびれている。


 あぁもうこの仕事請け負ったの誰!?


 小百合さんか。


 でも、これもいい経験だと思う。


 普段、私たちルールーコーポレーションのスタッフは式の流れを計画したり、会場でお客さまの案内をするなど、現場第一線ではあるものの、料理を運んだり会場のステージやテーブルのセッティングは業者任せ。


 華やかな式の見えないところで、業者の人たちはこんなにバタバタと働いているんだと知る機会を得られた。


 小百合さんが敢えて、あまり利益にもならず、疲弊する仕事を請け負ったには、彼らの大変さを私たちに学ばせ、無茶なプランニングはしないよう肝に銘じさせるためなのかもしれない。



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