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未来がずっと、ありますように  作者: おじぃ
お盆休み・同人誌即売会
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未来を歩んでゆく

 楽しい時間の魔法が解けて、大船のマンションに帰った。


 ひとりの時間が、また始まった。


 じいちゃんが旅立ってから、私は周りの人たちに気を遣わせてしまっている。


 きょうの海水浴とバーベキューもその一つ。


 他には花梨ちゃんが横浜のアニメショップや同人誌ショップに連れて行ってくれたり、小百合さんが地元、山手やみなとみらいを案内してくれたり、成城さんが「誰にも内緒よ」とネコカフェに連れて行ってくれたり。それはとても嬉しくて、私はなんて幸せ者なんだろうと、胸中は謝意と幸福で満ちた。


 だけど本牧さんだけは、じいちゃんの生前と変わらない。相変わらず私をいじるし、駅がいているときにホームで会うと自販機でジュースを買ってくれるし、ブライダルトレインの仕事も私の忌引で少し遅れているものの、ほぼ滞りなく進んでいる。


 以前と変わらない日常の延長線上に、彼はいる。


 それが私の心を、落ちつかせてくれている。


 でも、じいちゃんを失った悲しみや寂しさが拭えたかといえば、そうじゃない。


 色んなことが入りまじって気持ちをき止めるから、感情が剥き出しになっていないだけ。


 この何年かで、私の周りでは命について考える色んなことが起きた。


 まず、なんといっても東日本大震災。東北地方の沿岸部が地震後ほんの1時間で呑み込まれ、見慣れた景色を無慈悲に流していった。


 日々の報道でも、世界各地で凄惨な事件や痛ましい事故は後を絶たない。


 ドキュメンタリー番組を見れば、肉食動物が草食動物を捕食する姿が。


 就職して関東に移住すると、駅の電光掲示板には毎日のように『人身事故』がスクロールされている。


 苦しい思いをして死に絶える命が無数にある中で、じいちゃんは老衰という、とても幸せな最期を遂げた。


 それに、火葬場では本牧さんを通じて会話もできた。


 彼がそばにいてくれれば、またじいちゃんと話せる。そんな期待感もある。


 身がなくなってもまた会える、そんなの本当に贅沢すぎて、悲しみよりも幸せが勝ってしまった。


 更に欲を言うならば、私も本牧さんみたいに霊能力を持ちたい。


 本牧さんは霊能力の保持を周囲に内緒にしていると、火葬後にそれだけ話してくれた。


 私も本牧さんくらい優秀で芯が強くなれば、能力を身に付けられるのかな?


 それとも生まれ持ったものなのか。


 はたまた、苦労の多い子ども時代を過ごした対価か。


 私は本当に人に恵まれて育ってきた。


 でも本牧さんの生い立ちは、私と真逆。


 数字や肩書きで人を見る両親の下、ずーっと勉強漬け。祖父母は早くに亡くし、本当に心の拠り所のない日々を何年も過ごしてきたのだと思う。過去に交際してきた女性だって、楽しい思いはさせてくれても奥底までは理解してくれなかったという。


 もし私が彼と同じ境遇だったら、きっと我を失い森の中を彷徨って、クマや毒ヘビを探し求めたと思う。


 あぁ、やっぱり本牧さんは、私なんかが付き合っていい人じゃないんだろうな。


 小百合さんや成城さんみたいに、優しさ、知性、たくましさを兼ね備えた人じゃないと対等に渡り合えない。雲の上というよりは、あまりにも高い岩の上にいる人なんだと思う。


 しかし憂いていても時は流れ、四十九日の法要(これにも本牧さんと小百合さんが来てくれた)が過ぎ、季節は秋へと移ろった。


 東北ほどではないものの、空気は少しずつひんやりしてゆく鎌倉。そろそろ私の誕生日も近い。


 仙台では夏でも見られる赤とんぼの仲間が、神奈川南部では秋の訪れを知らせる紅と知った。


 出逢いの春、別れの夏が過ぎて、次はどんな秋が来るのかな。


 濃密だった春夏の想い出を胸に、待ってくれない未来を、私は歩んでゆく。


 たとえそれが、険しい道でも。

 お読みいただき誠にありがとうございます。


 機器トラブルにより、先週は急遽休載させていただきました。大変恐縮です。

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