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未来がずっと、ありますように  作者: おじぃ
お盆休み・同人誌即売会
148/334

久里浜家の庭でバーベキュー

「あっついもうムリ!」


 酷暑に根を上げ砂浜から戻って来た百合丘さん。それに続いて衣笠さん、久里浜さんも僕が腰を下ろすレジャーシートに集まって来た。パラソルの下はほんのり涼しい。


「わぁ、海水で肌がヒリヒリする」


「私ももう何年も海水浴してなかったからヤバみがすごい」


 最年長である久里浜さんの発言は、3人の中で最も知性を感じられない。ヤバみがすごいという抽象的な表現を含んでいるからだろう。これでも電車のあれこれを隅々まで勉強した運転士だ。運転技術も異常時の対応も申し分ない。


 3人が海水浴をしていた時間はわずか15分。酷暑の中、塩を含んだ海水に浸かり日光を浴びるという行為は耐え難いものだろう。


 僕も数年前までは地元鎌倉の由比ヶ浜や七里ヶ浜で海水浴を楽しんでいたが、もうそんな元気はない。


 ビーチから撤収し、全身砂まみれになった僕らは海岸に近い久里浜さんの実家におじゃまして、シャワーを借りた。彼女の母はイケイケの湘南ギャルならぬレディーで、上はビキニ、下はデニムの短パンだった。


「きょうはうちのバカ娘のためにわざわざ茅ヶ崎まで来てくれてありがとね~。好きなだけ食べてって!」


「わっほーい!」


「アンタは焼くの」


「焼いて食べる。香川屋の肉は美味いからどんどん食べて!」


 香川屋は近所にある精肉店。時々テレビで紹介される、周辺住民御用達の店らしい。


 シャワーの後は芝生の庭でバーベキュー。テニスコートと同じくらいの面積があり広々としていて、置き物や花壇、池はない。人口増加傾向にあり、余地の少ない茅ヶ崎の、特に海側では新たに土地を購入しても庭付きは困難。しかしまだ人口が少なかった昭和時代からこの地に住んでいる久里浜家は、いわゆる田舎の地価で庭付き戸建てを入手したという。


 庭の中央に火を入れたバーベキューコンロ、すだれのかかった縁側にはクーラーボックスが置いてあり、水と氷がたっぷり入ったその中には缶ビールやソフトドリンク、2リットルペットの天然水が十二分に浸かっている。


 その東隣に物干し竿があり、洗濯してもらった僕らの水着が干してある。バーベキューのにおいが付着しそうだ。もしビキニを泥棒が盗んだら、予想外のにおいに気を病むだろう。しかし海水や砂が付着したまま持ち帰るよりは清潔だろう。


 久里浜母子と僕が肉や野菜をある程度焼き、とりあえずビール、百合丘さんはコーラで乾杯。喉に染みる。


「いいなぁ、久里浜さん、こんないいところで育ったんだ」


 泡を噴いたコーラをグビグビ飲んで口の周りに茶色の髭を生やした百合丘さんが言った。


「うん、人口は増えたけど田舎の気風が残ってて、首都圏にしては住みやすいと思う」


「ごめんなさいね、人口を増やしてしまって」


「あ、えりちゃんも流入市民だったね、ごめんごめん」


「いいのよ、駅のホームをはじめ、色々なインフラがキャパオーバーしているのは見ていてわかるから」


「あ、あの、大丈夫だと、思いますよ! 仙台だって、土地は余ってるけど電車とかバスは人いっぱいで窮屈だし、茅ヶ崎だけの問題じゃないかと……!」


 衣笠さんが咄嗟のフォロー。


「そうね、私の地元も電車は窮屈で、1時間に1本しか走らせていないのにほぼ満員よ」


 日本の悪しきスタンダード、満員の交通機関問題。


 特に鉄道に関しては首都圏ほどではないものの、全国各地に満員の列車が走っていて、1編成あたりの車両数や運行本数はとても十分とはいえない。しかし将来の人口減少を見据え、多くの鉄道事業者は車両数、運行本数の削減を進めている。


 代わりに新幹線や特急、観光列車では高級志向の車両を運行し、ゆったりしたスペースを設けている。


 今後、普通列車はどうなってしまうのだろうか。


「それに、川崎を走る小田急線は超激ラッシュ路線で線路増やしたくらいですから!」


 百合丘さんもフォローを入れた。小田急線といえば少し前までは超混雑路線として名を馳せていたが、彼女が言ったように線路を増やし、その分列車を増発したため、混雑はいくらか緩和されているという。


 そんな流れで女性陣たちは地元話に花を咲かせていた。


「そういえば本牧さんって、どんなふうに育ったんですか?」


 なんの脈絡もなく百合丘さんが振ってきた。ずっと黙って会話に参加しなかったからだろう。


「僕? 大した育ちじゃないよ」


「私、前から気になってたんですよ! えりちゃんとか松田さんに訊いてもよく知らないっていうし」


 なるほど。特に語るようなことでもないから話さなかったに過ぎないが、逆に語って支障のあることでもないから、打ち明けるとしよう。

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