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未来がずっと、ありますように  作者: おじぃ
お盆休み・同人誌即売会
147/334

悠生、ビーチでお姉さま方にいじられる

 お祖父さんの告別式から2週間弱。とうとう夏が終盤に差し掛かって来た。


 衣笠さんと出逢ってからの日々はなぜか色濃く、プライベートが非常に充実してきたのは明白だ。


 昨年の僕といえば、ほとんどが自宅と職場の往復。現在ブライダルトレインを請け負っているように、別の社内活動はしていたものの、休日は行き慣れた鎌倉のお寺巡りや横浜、横須賀を一人散策していた程度だ。


 そんな僕は今日、成り行きで茅ヶ崎のヘッドランドビーチに来ている。


 単独ではない。衣笠さん、三浦さん、成城産、百合丘さん、そして久里浜さんもいっしょだ。つまるところ、コミケと同じ面子。


 僕の地元、鎌倉にも由比ヶ浜や七里ヶ浜などの海岸はあるが、今回「海水浴をしよう!」と言い出したのが久里浜さん。故に彼女の地元、茅ヶ崎で海水浴という流れとなった。


「わぁクラゲクラゲ!」


「ぎゃあこっち来んな!」


「大丈夫だよクラゲに刺されても納豆アレルギーになるくらいだから。だがカツオノエボシ、アイツには気を付けろ。あの透き通る青に刺されたら死ぬぞ」


 恐れおののく衣笠さんと百合丘さんに対し、久里浜さんは至って冷静だ。


「納豆アレルギー!? それは困ります!」


 僕も衣笠さんと同意見。海水浴をしたがためにあんなに美味しいものを生涯食べられなくなるなんて、代償が大きすぎる。


「納豆お肌にいいもんねー」


 浅瀬で遊んでいるのは衣笠さん、百合丘さん、久里浜さんの3人だけ。僕、三浦さん、成城さんは水着姿ではあるものの砂浜に立てたパラソルの下、レジャーシートに腰を下ろし、保護者のような眼差しで3人を見守っている。なお、この面子の最年長者は久里浜さんだ。年下に保護者面されていると知ったら、彼女はどう思うだろうか。


 どうも思わないか。


 きらめく果てなき海。海水浴客で賑わう茅ヶ崎東海岸。沖には烏帽子岩。


 茅ヶ崎でメジャーな海水浴場といえばここから1キロほど西にあるサザンビーチだが、このヘッドランドビーチはそこと比べてやや人が少なく、身動きを取りやすい。困るのは、海の家どころか近くにコンビニもなく、ドリンクを入手するには国道を跨ぐ歩道橋を渡って自販機まで3分ほど歩かなければならない。


 周辺ではバーベキューを楽しむパリピな雰囲気の人々がヒップホップやダンスナンバーをかけながらどんちゃん騒ぎしている。久里浜さんいわく、そのほとんどは他所から訪れた者。高い割合で飲み物の容器はもちろんバーベキューのコンロなど大型の物品を海岸や周辺道路に不法投棄してゆくので、茅ヶ崎市民は極めて冷たい目で彼らを見ているという。


 僕がぼんやり海を眺めている間に、成城さんと三浦さんは各々パラソルを立て、白いビーチベッドを広げた。


「私、こういうの一度やってみたかったんです。ふふっ」


「私も初めてです。寝ている間に焼けなければいいけれど」


 ふたりとも、なんて綺麗なボディーラインなのだろう。うっかり見惚れてしまった。


 加えて無造作ヘアーで包み込む優しさを持つ三浦さんと、本当は心優しいクールビューティーなキャリアウーマンという個人的にはとても好みのふたりが並んでいるのだ。眼福というほかないだろう。


 多くの男子が抱える謎であろうが、水着も下着も露出度は同じ、むしろ下着のほうが低いくらいなのに、なぜ水着姿は恥ずかしくないのだろうか。これまで出会った何人かの女性に訊ねたところ、気持ちの問題、私は別に裸でも大丈夫という回答を得られたが、彼女らは皆ビッチ。


 では、三浦さん、成城さんは?


 百合丘さん、衣笠さんは?


 久里浜さんについては考えないでおこう。


 仮に3人の羞恥心が希少としても、少なくとも衣笠さんはビッチではないだろう。


 まさか、彼女にはまだ羞恥心が芽生えていない?


 そう推論すると妙に納得できる。


「どうしたの本牧、妙に考え込んでいるようだけれど」


 レジャーシートで胡坐あぐらをかく僕の隣、仰向けで寝る成城さんがこちらを見て問うた。


「えぇ、海はどうして青く見えるのかなって」


「太陽から発せられる七色の光線のうち、青の光だけは反射せず水に吸収されるからよ」


「そうでしたか、ありがとうございます」


「フッ、そのくらいのこと、あなたなら知っているわよね」


「いえ、僕なんかまだまだ知らないことだらけですよ」


「そう、まぁいいわ、あなたもあなたなりに、このひとときを満喫しているのよね」


 成城さんの向こうで三浦さんがクスクスしている。この3人の中では僕が最年少。


 僕の考えていることなどお見通しであろうこのふたり。近ごろ衣笠さんをいじって楽しんでいた僕はいま、お姉さま方に掌で転がされている。


 相手が単なる性悪女だったら不愉快極まりないが、このふたりならこれもまた一興。表情には出さず、暫し不慣れなこのむず痒い感覚を愉しもう。

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