美人と雑魚寝
プーン、プウウウウウウン。
このくすぐったい耳障りな音は、蚊だ。
瞼を閉じていても蛍光灯の白が透過してくる。
灯りを点けたまま座布団を枕に畳の上で眠ってしまった。
三浦さんも同じく、静かに眠っている。折り畳んだ綺麗な脚に色気があり、開いたシャツの胸元も刺激的だ。
起き上がった僕のそばから逃げた蚊。こんどは三浦さんのほうへ寄った。
「んんん……」
羽音が聞こえたのか、三浦さんは迷惑そうに眉間に皺を寄せ、徐に起き上がった。
蚊はしばらく僕らの周りを旋回していたが、じきにどこかへ身を潜めた。
「すみません、眠ってしまいました。いま、何時でしょうか」
「1時半ですね」
僕は彼女の胸元に、つい視線を寄せてしまう。
これまで付き合って来た女性は、ざっくりいえばガサツなビッチだったので、清楚な女性は僕にとって新鮮かつ免疫がない。
「あの、もしよろしければ、お風呂にでも。お湯は張っていませんしシャンプーは男用で、着替えもありませんが」
「ありがとうございます。では、お言葉に甘えて。実は私、呑んだ夜はよくホテルに泊まるので、石鹸類と着替えは常に携帯しているんです」
三浦さんはおもむろに立ち上がり、ふふっ、とにっこり笑って立ち上がった。
これはどういう意味かと刹那に勘繰ったが、僕の視線をヘビのように捉えていた。それはつまり、見ていましたねということだ。
三浦さんがシャワーを浴びている間、僕は平服から寝間着の黒いジャージに着替え、寝室兼客間に来客用の布団を押し入れから出して敷いた。
僕の布団はすぐに敷けるよう部屋の隅に畳んで置いてあるが、今夜は居間の座布団で眠るとしよう。
「お先、ありがとうございます。本牧さんは夜が明けたらお仕事ですのに、酔った勢いで押しかけてしまい申し訳ありません」
座布団で寝転んでいると、間もなく三浦さんが風呂から出てきた。ビジネスホテルに備え付けられているような薄手の白い浴衣を纏っていて、僕は思わず唾を飲んだ。部屋には風呂上がり独特の湿気と香りが漂っている。
「いえいえ、楽しかったですよ。三浦さんはお仕事、お休みですか?」
「はい、実は……。本当に自分勝手で申し訳ございません」
「本当にお気になさらないでください。では僕も、シャワーを浴びてきますね」
「はい」
三浦さんは本当に申し訳なさそうにしゅんとして、タオルを持って脱衣所に入る僕をか弱い視線で追っていた。
お読みいただき誠にありがとうございます。つい先ほどまで茅ヶ崎アロハマーケットの会場バラシを手伝っておりました。大雨でしたね。ご来場された方とはお会いしたり、もしや会話もしているかもしれません。
先週は短期集中連載『私たちは青春に飢えている』が〆切間近であったため休載させていただきました。
アロハな街、茅ヶ崎を舞台に発言が過激な残念系JKとツッコミを入れる彼、その周りの愉快な変わり者たち、そして作者のゴツくてアブノーマルな友人(ラチエン通り香川屋分店のアンチャン)が繰り広げる、茅ヶ崎らしい青春ラブコメディーとなっております。地元の実店舗、企業にもご協力いただいた『私たちは青春に飢えている』、ぜひお読みいただけましたら幸いです。




