しあわせな夢、しあわせな朝
無造作に綿菓子を散りばめた青空の下、実家の縁側に寝転がり、ほどよい陽光と涼やかな風を浴びる。ぴーひょろろと、空高く弧を描くトンビたちの音に和み眠る。
寝返りをうって手脚を畳み丸くなると、肩にトンボが留まって翅を休めた。
あぁ、私いま、夢を見てるんだ。
リビングでクーラーをかけてるから、客間も適度に涼しい。だから緑の風が涼しい実家の夢を見てるのかな?
ちっちゃい頃は、よくこうして日なたぼっこしたっけ。
「未来、おやつの時間だよ」
そう。お昼寝して、3時になったらばあちゃんのやさしい声に起こされて、いつも何かしているじいちゃんも手を止めておやつの時間。甘納豆、子どもの口が膨れるほど大きなあめ玉、紐状の味付きゼラチン菓子。どれも砂糖がまぶされていた。
また近いうちにできると思って見送った些細なことの数々が、いつの間にかもう滅多にだったり、二度とできなくなっていたりする。
大人の階段は上れば崩れ、引き返せない。ならばと足を止めれば、仮初めの安寧の先に荒廃の未来が待ち受けている。
人生という旅は、ときに当たり前をも忘れさせる。
いつか当たり前だったものと再会したとき、その尊き幸福に気付く。平凡な日常が、実は掛け替えなき宝物だと知る。
どこからともなくじいちゃんが出てきて座布団に腰を下ろし、漆器の更に盛られたおやつを食べる。卓上にはペットボトルの緑茶とオレンジ果汁入り飲料があって、私だけオレンジを飲む。
乳業メーカーのロゴがプリントされた3つグラスコップに緑茶とオレンジを注ぐ。その一口目を口にしようとしたとき、からだに何かが覆い被さっていると気付いた。
夢から覚め、現実の世界へ戻る時間が来たようだ。
私はよく、五感を要するアクションへ移るときに目が覚める。今回もそのようだ。
かつて当たり前だった日々の、とても幸せな夢だった___。
「んん……」
意識を取り戻した私は、覆い被さっているものに顔面をズリズリした。
どこかで嗅いだような、やさしい匂い……。
それは腕までもがっしり覆っていて、私は起きようにも身動きが取れない。
段々と目が覚めてきて、自身に覆い被さっているものの正体に気付く。
本牧さんが、私を抱いてる……。
あぁ、あぁ、どう、しよう……。
ホッカイロのように胸がじんわり焦がれて、ぎゅっと縮こまりたくなる。
愛を確かめ合ったわけじゃない。それはわかってる。ただ無意識のうち抱き枕にされているだけ。
それでも、それでも。
大好きな人に抱かれ目覚める。なんて幸せな朝だろう。
きっとまだ、3時間くらいしか眠っていない。けれどもう、胸の高鳴りで眠れない。
「もう、これじゃ睡眠不足だよ」
囁くように口にした。
再び瞼を閉じて、感覚を研ぎ澄ます。
あれ? また眠くなってきた。
ならもう少しだけあの頃に帰って、幸せな夢を見よう。




