いいところを取り入れる
「観測できない世界、か。衣笠さん、初めて会った日の桜の木のこともですが、命に関する持論がとても神秘的で、説得力がある」
「説得力!? そ、そうですか!? なんだかこう、そういうことを言った後にいつも後悔するので……」
「どうして?」
「どうしてって、だって、そんなこと、ふつう言わないじゃないですか。地元の友だちに似たようなこと言ったらポカンとされましたよ」
「うん、まぁそうですよね」
「ほら、やっぱり」
「でも、僕は全然おかしくないと思います。亡くなったらお星さまになるとか、命には役目があるなんて話は日常でこそあまりしないと思いますが、お葬式でお坊さんが語ったり、テレビでもよく言われます。それを純粋に信じられる感性を持っているのは、とても素敵なことだと思います」
「そ、そうですか!? バカ正直に信じてて子どもっぽいだけなんじゃ……」
「あぁ、そうなら僕も子どもですね。そういうの信じてますから」
僕は敢えて冷めた口調で言った。
「あっ……。い、いえ、いやいやいやいや、そういう意味じゃなくてですね!? だからえーとその、私はほら、見た目も子どもっぽいし」
「なるほど、衣笠さんは見た目も中身も若々しいけど僕は見た目は大人でも中身は子どものイタイヤツだと」
「ちょ、そ、そんなこと言ってないでしょう!? そこはこう、なんというか、ニュアンスで察してください!」
毎度僕の意地悪に狼狽し、とうとう反撃してきた衣笠さんが相変わらずおかしくて、思わず「ぷっ」と噴き出してしまう。
「な、なんですかそうやって人を小バカにして!」
「いえいえなんでも。でも本当に僕には通じる話なので。見ている世界も物事の捉えかたも人それぞれですから」
衣笠さんはあからさまに「また誤魔化したな」という目をして、
「うーん、そう言われてみればそうですね。同じ街に住んでたって人それぞれ価値観があったり、雨が降ったときにどんよりした気持ちになる人がいれば、水不足にならなくて済むと安堵する人もいるように」
「そう。だから僕にとって命は意味があって生まれ来るものという考えかたは、誰かと会ったら挨拶するくらい普通のことです。ただ……」
「ただ?」
「こういった話は客観視すると高尚な部類に入るだろうし、宗教的に聞こえたりもします。幸せになれるなら宗教の信仰が悪いとは思いませんが、まぁ、なんというか」
「社会通念的なイメージが?」
「えぇ。でもね、自分や取り巻く環境と真剣に対峙すると、自ずと存在意義を意識するものだと感じています。例えばある有名なお医者さんとか、偉業を成し遂げる人の多くもそのように語ります。だから、そういうことを考える自分に他者からの共感が得られなくて自信が持てないときは、あの偉い人も私と同じことを考えてるんだって思えばいいんです」
その有名な医師はキリシタンだが、斜めに見られがちな宗教だって教えを丸ごとすべて信じる必要こそないと思うが、良い文言はたくさんある。
宗教だけじゃない。好きな人の言うことも、嫌いな人の言うことも、電車に乗り合わせた知らない人の言うことも、良いと思った部分はどんどん吸収すれば良いと僕は思う。
お読みいただき誠にありがとうございます。
これで文庫本約2ページ分です。
先日別のところでお話しさせていただいた、アニメ『ハイスクール・フリート』のトークショー。声優の夏川椎菜さん(同作、岬明乃役、『Re:CREATORS』星河ひかゆ役など)、Lynnさん(同作、宗谷ましろ役、『Just Because!』小宮恵那役など)衆議院議員の小泉進次郎さん、横須賀市長の上地克明さんのお話を生で聞かせていただきました。
その中で語られた『何事もやってみなければわからない』という文言(和菓子屋がアニメグッズを大量販売など。詳細は当日の模様が録音された『はいふりラジオ』をお聴きください)。
そういえば本作もそうでした。打ち切り寸前だった本作にイラストを描いていただけることになり、前準備で更新頻度を上げ、イラストを公開。更にキャラクターの追加投入、大幅改稿、文章力向上に挑んだところ、いわゆる黒字ラインの作品へ成長できました。
これも支えてくださる皆さまのおかげで、自分一人では成し得ないことがたくさんあると実感しているところです。皆さま誠にありがとうございます!




