星空の向こう側
「そんなことが……」
僕の話を聞いた衣笠さんは悲しげに、切なげに言った。
「はい。それで、ちょっと驚くようなことを言ってもいいですか?」
「あ、はいっ、どうぞ?」
この流れで何? と言いたげに鳩が豆鉄砲を食らった表情の衣笠さん。
「実は僕、霊感があって、駅で件の負傷者の方と時々お会いするんです」
「おお、そうなんですね。っていうことは、成仏されていないと」
衣笠さんはほぼノーリアクションで拍子抜けしたが、僕は用意していた次の言葉を発する。
「はい。ところで衣笠さんは、霊感とか幽霊の存在とか疑ったりはしないんですか?」
と言いつつ、僕は素直な彼女を信じて打ち明けていたのだが。
「あ、それは大丈夫ですよ。空気とか電波と同じで見えなくても存在してると思ってます」
穏やかな笑みを浮かべ、彼女は言った。
僕にとって幽霊の存在は当たり前。しかし世間はそうじゃない。バラエティー番組で取り上げられたり心霊スポットで肝試しをしに行こうなんて人もいるが、半信半疑、怖いもの見たさを動機としたものだろう。
それどころか科学で解明できないものは存在しないと全否定する人さえいる。僕の両親もそうだし、そういった人は割合こそ知らないもののかなり多いだろう。
当の僕だって、しばらく彼らの姿を見なくなると、あれは幻覚だったのではと自身を疑いもする。
そんな曖昧なものの存在を、彼女は当たり前に信じている。
それが僕に、自信を持たせてくれた。しかもたった一言の、何気ない発言で。
「どうしました? もしかして私、何か変なこと言いました?」
彼女は淡々と言った。
「あ、いえ、ちょっとぼんやりしていました」
「ふふ、そうですか。あの、よかったらちょっと、ベランダに出ませんか?」
促されて立ち上がり、僕らはリビングからベランダへ出た。
慣れない感触のクロックスサンダル(衣笠家全員で外に出る想定なのか、青2足ピンク3足の計5足ある。僕は青を借り、衣笠さんは左ピンク右青で不揃い)、見慣れた大船の地味な景色。
この部屋から見る景色も例に漏れず、眼下には庶民的な住宅街と裏道。通りかかる自動車の軽自動車率が周辺地域より少し高い。
「空、見上げてみてください」
言われるまま見上げるも、天の川など当然見えない、見慣れたまばらな星空。この前見上げた仙台の星空を恋しく想う。
「正直、ここでもこんなに星が見えるなんて思いませんでした」
「え、これで?」
「街灯りが眩しすぎて、星なんて一つも見えないと思ってましたから」
「ああ、なるほど」
「それでですね、あの、なんというか、街灯りと星の瞬きって、どっちも光なのに、綺麗の感覚というか、種類が違うと思いませんか?」
「そうですね。街灯りは煌びやかで華やかで、星の光は静かでやさしい」
「そう、そうなんです! それでですね、何が言いたいかというと、街の灯りは田舎者が東京に憧れるようなもの、だからその、冒険しに行く雰囲気で、星の光は心が還る場所、つまりふるさとだと思うんです」
「んーと、えーと」と、彼女はくすんだ星空を仰いで言いたいことをアウトプットしようとしている。
「そう! だからきっと、地球に暮らす命はきっと、その役目を終えたらこの星空のうちのどこかに還るんじゃないかって思うんです。幽霊さんみたいにご帰宅なさらない方もいますけど、でも還る場所はあの中のどこかにあるんです! そこには水も空気もないかもしれませんが、霊体ならそんなの必要ありません。きっと人工衛星では観測できない世界があるんです!」
話下手なのはよく知っているから、敢えて僕は言葉を発さず、その興味深い話の聞きに徹する。ふとしたときに漂う、彼女の甘く優しい香りに鼻腔をくすぐられながら。
お読みいただき誠にありがとうございます。
恐れながら、先週は急病のためお休みさせていただきました。
最近、アニメを作りたいと地元の方々にぼやいている私ですが、言っているうちにこの作品は大人のキャラクターがメインだからか他作品と比べて静かだな、未来たちにもっと躍動感を与えたいなと思うようになりました。
創作活動もですが、日々に躍動感を与えるのは前向きな方との交流が大きくあります。幸い今年に入って夢や目標を持った方々との交流が増え、地元の方々や某アニメ関連で横須賀の方々、先ほどは本作に挿絵をくださった源まめちちさんと一言二言Web上でメッセージを交わしましたが、それだけでも結構良い刺激になります。うーん、エンタメ産業が盛んな地元の街でいつか一緒に仕事してみたなー。
さて、ではでは次の作業に取り掛かりたいと思います(*´ー`*)




