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未来がずっと、ありますように  作者: おじぃ
序章

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迷い人の一人

 日が暮れて闇夜が訪れた遊水池に、わああ! と集まった人々の歓声が上がる。


「ホタルだあ! ねぇママ、ホタルだよ!」


 その中にいる5歳前後の男の子がはしゃぎだす。


 そう、ここに人々が集まったのは、初夏の幻想、ゲンジホタルを観賞するためだ。ほんわかと黄色い光を発しながら音もなく飛び交う彼らは、本当にこの世の生物なのだろうか。初めて見た本物のホタルの光に心奪われ、僕は息をするのも忘れたかのように夢中で眺めた。


 だが我に帰ると子連れやカップルでガヤガヤしている周囲に僕だけが単独という状況が居心地悪くなり、そろそろ引き上げようと回れ右。すると、そこには群れる蚊のような速さで飛び交う白い光の群れがあった。ヘイケホタルだ。


 他の人々は優雅なゲンジホタルに気を取られているが、背後では光こそ弱いものの、それでも懸命に飛び交うヘイケホタルは、まるで僕たちのことも見てよ! ゲンジホタルには負けるけど、一生懸命頑張ってるよ! と訴えかけているかのよう。


 大丈夫、僕はちゃんと見ているから。


 なんて、勝手なメッセージを彼らに送る。ホタルからすれば、見物客は同種のめすであって欲しく、人間など婚活の邪魔者以外の何者でもないのだろうが。


 ファンタジックなひとときを満喫した僕は、公園を出て片側一車線の県道に出た。暗闇の中にポツリと光る一台の自動販売機はどこか寂しげで、仕方ないから何か一つ買ってやろうと思った。


 コインを入れると「いらっしゃいませ!」と女性の可愛い声で僕を歓迎してくれた。微糖の缶コーヒーを購入すると、「ありがとうございました! 今日も一日、お疲れさまでした!」と僕を見送ってくれた。おいおい、むしろ疲れているのは年中無休で働くあなたじゃないのか? と内心で突っ込みを入れ、街灯一つない家路を辿る。


 どの辺りからだろうか。僕の意識はすっかり現実世界へと戻り、気が付けば白壁の狭い部屋で湯を沸かし、ピーピー鳴くヤカンを用いてカップラーメンを調理していた。


 ホタルを眺め、心を浄化した筈なのに、どこか満たされない。理由はきっと、孤独というものを噛み締め過ぎているからだ。最初は戸惑うばかりでミスを重ねていた仕事にも徐々に慣れ、評価が上がり、同期社員の中では少々リードしている自分。


 けれどそれは、他の誰かにも代えられる役目に過ぎない。自らの存在意義を問うて、仮に明確な結論を導き出せたとしても、それだけでは今のどうしようもなく俯きたくなる感情を抑えられる気がしない。


 というより、この気持ちを和らげるために限ってはそんな回りくどいことを考える必要などない。対処法などとうに見付けていて、でもそれはそう簡単に手に入るものではないから、仕事や他の悦楽えつらくに逃げようと悪足掻わるあがきをしただけだ。


 人は一人ひとりが違うというけれど、少なくともそういった意味では、僕は5万どころか幾億もいる迷い人の一人に過ぎないのだ。


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