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未来がずっと、ありますように  作者: おじぃ
お盆休み・同人誌即売会
108/334

アンチエイジング

「あ、未来ちゃんやっと起きた」


 リビングの絨毯から身を起こす前に目をパチクリしていると、天井の模様が何かに見え始めたところで久里浜さんが現れそれを塞いだ。あの模様はネコかタヌキか……。


「おはよう、ございます……」


 もう正午くらいかな?


「おはよー。えりちゃんと花梨ちゃんは午前中に帰っちゃったけど、本牧はお昼ころに起きて私のおごりのピザとケーキを食べてシエスタ中」


 お昼ころに起きて……?


 はっ!? もしかして私、やってしまった!?


 すかさずテーブルに置いたスマホの画面を点けると、一瞬2時34分を表示して、すぐ15時35分に変わった。


 うわぁ、やっぱやっちまったぁ。イヤな予感はだいたい当たる。夜更かしし過ぎて一日を無駄にしちまった。


 大学時代たまにやったオールナイト。帰りたくても場の空気がそうさせない夜。夜通しカラオケやボーリングをした後、見慣れない静けさと一日の始まりを告げる音が共存する不思議な朝方の街を体感できるのは良いけれど、帰宅後に疲れて眠ると起きたときには薄暮時というとんでもなく一日を無駄にした感覚に青褪め激しい後悔が襲うそれだ。


 オールするくらいならどこか旅館に泊まってゆっくり温泉に浸かって良く眠り、夜明け前を体感するなら早起きしたいタイプの私にとっては精神的肉体的負担がすんごく大きい。それがまた、私を襲い蝕んでいる。


 昨夜はオールではなかったんだけどなぁ。もしや老いか。これが20代になると陥る老いというものか……!


 たとえ心はお子ちゃまでも、からだはそれを無視して老いてゆく。地元の友だちからは若いと言われるけれど、それでも針は進み地球は回る。


 あぁ、本牧さんとか成城さんは歳を取ってもカッコイイ雰囲気になりそうだなぁ。歳を重ねるごとに魅力が増す人もいれば、ただただ老いて身も心も廃れてゆく人もいる。


 ああ、もうだめだぁ……。


「どうしたの未来ちゃん、黒と紫のオーラが出てるよ?」


「アンチエイジング」


「安置、英人、具?」


「あ、ごめんなさい訛ってましたね。発音が田舎の婆さんでしたね。年齢に抗うにはどうすれば良いのかと思いまして」


 電車の運転士という不規則生活を余儀なくされ人命を預かるとても神経を使う仕事をしている久里浜さん。しかし29歳にしてはJKと詐称しても疑われそうにないくらい若々しい。


「あ、アンチエイジング!」


 標準語に言い直された。


「うーん、そうだなぁ、いつも笑顔! かな?」


「笑顔?」


 そういえば私、最近あまり笑ってなかったかも。一人暮らしで会話する機会が減って、会社では忙しくて、愛想笑いはあっても心の底からは笑えてなかった。愛想笑いでもからだには良いというけれど、やっぱり何か違う。


「そう、笑顔! あとね、いい景色を見たり、楽しいことをしたり! あとは、あぁ、うーん……」


「気になります」


「うん、わかった。ちょっと場所を変えよう!」


 言って久里浜さんはソファーで眠る本牧さんを揺すり起こし、出かける準備を整え、私はちゃっかりピザとケーキをいただいた。

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