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未来がずっと、ありますように  作者: おじぃ
お盆休み・同人誌即売会
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さすが衣笠私は久里浜

 焼き肉パーティーが始まってしばらくすると、私と花梨ちゃん、本牧さん成城さん久里浜さんの2グループに別れた。お子ちゃま組とアラサー組。


 私は花梨ちゃんと注目している作家さんやアニメの話をしつつ、アラサー組の会話にも耳を傾けていたけれど、聞いていて、やっぱり本牧さんと成城さんは大人なんだなぁと、距離を感じていた。生徒と先生みたいな、そのくらいの差があるんじゃないかなって。


 本牧さんと成城さんの会話は、即売会の感想とクリエイターの今後について。


 私、そんなこと今まで考えもしなかったなぁ。


 というよりは、考える必要性がなかった?


 だって、私はウエディングプランナーで、イラストレーターとか漫画家じゃないから。つまり単なる消費者に過ぎないから。


 本牧さんだって鉄道員で、コラボ企画の仕事でアニメ関係の人に会う機会があるとかなんとかっていうだけ。


 でも他業種の人と話したり、そのお仕事について知るのは楽しい。それは私も共感するところで、彼といっしょにいたら色んな世界が見られるんだろうなって思う。


 私も、最近は鉄道の知識が増えてきて楽しい。


 うん、やっぱり知らない世界を知るのはいいことだ。これからも、ウエディングとか鉄道だけじゃなくて、色んなことを知りたい。


 そう再認識して、結局のところ私は成城さんみたいに本牧さんと対等に渡り合えるのかがネックなわけで……。


 こういう場面に遭遇したとき、漫画でよく見るのが、彼の趣味をもっと知って、実は私もこれ好きなんだ~とか、私もそう思う! なんてヒロインが白々しく言ったりするシーンだけれど、果たしてそれは相性が良いといえるのか。無理に合わせる必要はないんじゃないかとか、色々考えてはこんがらがる。


「未来ちゃん、お肉食べないの?」


 花梨ちゃんに言われ、ハッとした。


「わああ、食べる食べる!」


 騒いでいた久里浜さんが静かになって、花梨ちゃんとの会話が途切れ、次の話題に移らず沈黙していると思ったら、いつの間にかお肉が減ってる!


 一所懸命に焼いていた本牧さんも成城さんとおしゃべりしていて食べていない!


 本牧さん、せっかく自分で焼いたのに久里浜さんと花梨ちゃんにどんどん吸い込まれてゆく。成城さんはちゃっかり高級お肉とお野菜をいただいている。


「あ、あの、本牧さんは食べないんですか?」


 お話し中に恐縮だけれど、せっかくの焼肉パーティー。みんな満足な量を食べてほしい。


 本牧さんと、会話に割り込まれた成城さんが同時に私の目を見る。


 うっ、ヘビに睨まれたカエル状態……。


 こう、複数人の視線が同時に自分へ向けられるの、すごく苦手……。


「ありがとうございます。そう言ってくれるのは衣笠さんだけです」


 本牧さんは微笑んで、ではせっかくなのでと箸で高級肉を掴み、取り皿の上で塩をひとつまみふりかけて口へ運んだ。


「うん、美味しい。危うく食べ損ねるところでした」


「良かった。せっかくのお肉が焦げちゃったら勿体ない!」


 私も本牧さん同様、お肉に塩をひとつまみ。


 うーん! 口の中でとろけるお肉の甘味! 塩がそれを絶妙な具合に中和して、これはやみつきになる!


「それはだいじょーぶ!」


「心配しなくても私たちがきれーいに食べちゃいますよ!」


 と、久里浜さんと花梨ちゃん。


 あ、うん、そういう問題ではなくてですね……。


 それからなんやかんやで物凄い量を飲み食い(特に久里浜さんが)し、ラストオーダーまでお店に滞在。最後に久里浜さんは辛口の日本酒、他4名はたまごスープでお開きとなった。


「ああああああ!! 食った食った呑んだ呑んだ呑んで呑まれたあああヒエーヘッヘッ!!」


 焼肉店が入る雑居ビルの前、駅前通りにこだまする酒豪の奇声。


「ごめんなさいね、大変な人を連れてきてしまって。浜辺にでも捨てて帰りましょうか」


 成城さんは平謝り。ここ鎌倉駅前は海岸に近く、国道134号線沿いの由比ヶ浜(ゆいがはま)から茅ヶ崎のサザンビーチにかけては富士山と江ノ島を臨む朝陽、夕陽の絶景スポットとして広く知られている。


 鎌倉出身の本牧さんと茅ヶ崎出身の久里浜さんはそれを見て育ったのだろう。


 夜が更け、日付が変わる直前の鎌倉は、昼間の大賑わいが嘘のように静まり返っていて、たまにどこからか久里浜さんみたいにどうかしちゃった人たちの奇声が聞こえてくる。


「わあああ!! 私もう酔っ払って帰れない! ホームから線路に落ちる! 落ちなくてもどっか乗り越しちゃう! 乗り越して野宿してマワされちゃう! 私可愛いから!! あーどうしようそんなんなったらもうお嫁に行けない!! うぐぁあああ!! でも彼とは仕事で会うから別れてもなんか気まずい!!」


「社員証見せて駅に泊めてもらうのは?」


 と、本牧さん。


「駅員だって男だろっ! お前も駅員男だろ本牧っ!」


「はぁ……」


 あわわ、本牧さん、こんな自意識過剰女どうでもいいわって、露骨にそういう表情してる。


 でも駅員さんも男という理屈でいうと、同僚の運転士さんに男性はいない? いやいやそれはないよね。酔っ払いさんの言うことをいちいち真に受けていたら私がどうにかなっちゃう。都ちゃんといっしょにいるときのことを思い出そう。


「まったく、どうしてこんな人に恋人がいるのかしら。真面目に生きているのが馬鹿馬鹿しいわ」


「ホントですよ。私なんかまだ処女ですよ処女!」


 わわわわわ! 先輩にこんな言いたい放題で大丈夫なのかな?


 成城さんと花梨ちゃんが本人を目の前に堂々と文句を垂れ流す傍ら、本牧さんは苦笑している。


「あの、もう夜遅いですし、良かったら皆さん私の家に泊まりませんか? こんなこともあろうかと3LDKのお部屋を借りてるので、せっかくだから」


「おおおいいねぇ気が利くねぇ未来ちゃん! さすが衣笠私は久里浜!」


 さすが衣笠私は久里浜?


 どういうことなのかよくわからないけれど、とりあえずお泊まり会決定!

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