即売会後の打ち上げ2
「焼けたらどうぞ、お召し上がりください」
僕は物欲しそうな成城さんに食を勧めた。
「そうね、まずはお野菜から」
成城さんが全員の取り皿へ均等に野菜を分け、「いただきます」の声が飛び交い食事が始まった。
「ぶっはー! ベリベリウマイネー! 肉とビールはサイコーダネー!」
「ちょっと、飲み過ぎないでくださいよ?」
「だいじょぶだいじょぶー! 1杯だろうと百杯だろうと変わらないからー!」
先輩だからといって後輩たちに一切遠慮せず酒と肉をガンガン飲み込んでゆく久里浜さん。真面目な成城さんは心配と厄介を織り交ぜ彼女に警告するも、聞く耳持たず。
「それより本牧くーん、きょうは初参加、どうだったぁ?」
「そうですね、戦々恐々とした雰囲気の中に笑顔が飛び交っていて、しかしその性質は売り手と彼らに近い人だけの内輪の盛り上がりだったり、買い手の人にどんどん攻め入る作家さんもいたり、ひたすら買い手捌きに終始するサークルもあったり、まとまりがあるんだかないんだかわからない、混沌とした空間、といったところでしょうか。けれど個人的には楽しかったです。定期的に開催されるイベントなので、季節を感じる意味合いでも、また参加してみたいと思います」
「そっかーそれは良かったー! じゃあまた行こー!」
「はい。帰ったら成城さんの本を眺めて余興に浸りたいと思います」
言うと、成城さんが自らのバッグをおもむろに物色して財布を取り出し、僕に千円札を差し出した。あくまで僕と目を合わせない。
「あの、なんでしょう?」
「返金」
「こらこらえりちゃん! 作家は自分の作品を見てもらってなんぼ! 私は作家じゃないけどさ!」
「だって、まさか本牧が来るなんて……」
そう、成城さんは硬派な女性でありながら、困ると駄々をこねる。
「ホンモクがっ! くぅるぅ~!」
人差し指をくるくる前後させお笑い芸人の物真似をし始めた久里浜さんはもう完全にぶっ壊れていて、手の付けようがない。
「大丈夫ですよ。本がどんな内容でも否定しませんし、作品と作者の風体が同じとは限らないのも承知しています」
「そう、作家と作品は別物。とてもお下品な作品を世に送り出し、PTAを騒がせた故人作家はとても人柄が良く礼儀正しかったというし、逆にとても温かな作品を描いておきながら実は冷徹な作家も少なからずいるわ」
「はい、僕も存じ上げております」
それはきっといつしか企画部門の人に頼まれ企業のイメージキャラクターの制作を依頼しようかと目を付けていた数名のクリエイターのことだ。
僕と成城さんがそれぞれ個人アカウントをつくって彼らのSNSアカウントをフォローし、タイムラインを閲覧したりやり取りを重ねながら為人を観察していたのだが、いずれの作家も人を思いやる心が乏しい、リプライ返しは複数人が同じような内容のものを送っても一部の者にしかせず、差別的であった等の理由から、キャラクター制作の話は白紙とした。
他にも以前話題に上がったグッズ制作の件など、白紙案件はいくつかある。
最初から企業の企画者として接触していたら日頃の投稿や一般閲覧者に対する態度も違ったのかもしれないが、仮面を被られては意味がない。
「でも、あれじゃいけないのよ。フリーランスのクリエイターは星の数ほどいるけれど、ああいう人に複数当たってしまうと‘みんなそうなんじゃない?’ってレッテルを貼られてしまうし、私だって上役にそう問われたら否定できない」
成城さんはよく、クリエイター界隈の未来を憂いている。
一方で百合丘さんは、これまで私は気の合う友だちとしか接してこないで世間知らず、つもりはなくても失礼な態度を取っていたと自らの過去を省みたうえで、営業のプロがたくさんいるこの会社に身を置けているのはビッグチャンス! 世間知らずで失礼な過去の私みたいな連中をぶっ潰してやるぜー! と楽観的だ。
だが人間的に問題があるのはクリエイターだけの話ではない。例えば歩きスマホは他者への配慮を欠いている典型的なアクションで、すれ違い様に他の人と激突して喧嘩になるのは日常茶飯事。たまに電車に轢かれたり、酷い場合は歩きスマホで真っ直ぐ歩いてくる者を無理に避けた人が線路に転落するケースもある。
要するに、業界に限らず日本全体が自己中心的な傾向にあり、それに泣かされている善良な人もまた多くいるのだ。
お読みいただき誠にありがとうございます!
先週は急病のためお休みさせていただきました。最新話公開までお待たせしてしまい大変恐縮です。




