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未来がずっと、ありますように  作者: おじぃ
お盆休み・同人誌即売会
103/334

即売会後の打ち上げ

「皆さん、きょう一日おつかれさまでしたー!」


 と、衣笠さんが手に持つジョッキを掲げ、百合丘さん、成城さん、久里浜さん、僕の5人が集って乾杯をしている場所は鎌倉駅近くの焼肉店。未成年の百合丘さんは黒ビールのように見せかけたコーラ。店内すべてテーブル席で座敷はなく、バーのようにぼんやりした照明が落ち着いた雰囲気を演出する店。まだ肉や野菜は運ばれておらず、とりあえず黄金色の辛口ビールでゴクリゴクリと喉を潤す。


 百合丘さんいわく、即売会後は焼肉店での打ち上げがクリエイターの慣例らしい。


 お盆で人の少ない神奈川県だが、19時の店内は6割ほどのテーブルが埋まっている。


「あ、あのっ、私、鉄道員じゃないのにここにいて良いのでしょうかっ?」


「今回は鉄道員の集いではなくサブカルチャーを愛する方の集いなので、むしろ僕が部外者ですよ」


 衣笠さんの右斜め前に座る僕が問いに答えた。彼女の左斜め前で僕の正面には百合丘さん、百合丘さんの隣に久里浜さん、久里浜さんの正面で僕の右隣には成城さんが座っている。


「なーにカタイこと言ってんの! 立場とかどうでもいい! そこは気にするとこじゃなーい! ヒィィエィヒャッハー!」


 まだ一口しか飲んでいないのに、久里浜さんはもう酔い始めている。


「久里浜さん、運転士ってどんな感じですか?」


 百合丘さんが訊ねた。会社のシステム上、新卒時に駅へ配属となった百合丘さんは余程の事情がない限り車掌と運転士を経験するようになっている。僕や成城さんは中途採用のため乗務員にはならない。


「運転士? うーんそうだなー、今の電車は昔のよりずっと操作しやすいよ! 片手ハンドルだし車両の状態とかモニターでピピッと確認できるし。それより花梨ちゃんすごいじゃん! スタンプラリー開催後から駅の乗降人員急上昇したって! がはははは!」


「うーん、確かにスタンプ押してってくれる人は多いんですけど、単純に私の実力で売り上げアップしたと断言できないというか……」


「ん? どゆこと?」


「うちの駅周辺が今期アニメの舞台になってて。しかも2作。政府が勝手に結婚相手を決める作品と、創作上のキャラクターが現実世界に飛び出して作者とご対面したり色々大変なことに発展する作品」


「えっ!? そうだったの! うわあああ! なんだか私たち、アニメキャラクターと同じ世界に生きてるような気がしてきた!」


 若干の東北訛りで話の腰を折ったのは衣笠さん。まさか自分がアニメキャラクターと同じ土地で働いているなんてと興奮しているが、彼女の故郷、仙台はアイドル、戦国武将、バレーボールなどの様々な作品の舞台になっている。それは僕自身が先日仙台を訪れた際に確認済み。


「そう、私たちは2次元に生きてるんだよ未来ちゃん! それで、アニメの聖地巡礼ついでにうちの駅に寄ってスタンプを押してってくれてるのかなーって」


「いやいや、そんなことあるかもしれないけどそれだけじゃない! 私みたいにスタンプ目当ての人もいっぱいいるよ!」


「ありがとう未来ちゃーん! いいこいいこー!」


 バッと席を立ち22歳の未来お姉さんに抱きつき頭をなでなでする19歳のお子ちゃまかりん。しかし見た目年齢はあまり変わらず、さほど違和感を覚えない。撫でられている未来お姉さんもネコのように目を細めて嬉しそう。


 そこから二人はイチャつき始め、一方で久里浜さんと成城さんも何やら話し込んでいる。


 僕は焼肉屋独特のどんより温かい空気にまどろみつつ、独り酒を流し込む。ビールがジョッキ半分を切ったころには限界効用逓減作用げんかいこうようていげんさようにより進みが遅くなった。


 ちょうど飲み干したときに野菜と肉が運ばれてきたので、一同「わー! 肉だー!」と歓喜したのも束の間、おいお前、話し相手いなくてヒマだよな? と言わんばかりの女性陣の眼力に圧され、トング片手に黙ってそれらを七輪で焼く。しかし衣笠さんだけは焼き係の僕を気にしてくれているようで、百合丘さんと会話をしつつもチラッ、チラッと恐縮そうにこちらを盗み見ている。


 彼女の視線を気にしつつ、僕はまず野菜を焼く。ニンジン、タマネギ、ピーマン、シイタケ。続いてお肉を食べやすい大きさにハサミでカット。


 誰だいきなり佐賀県産、百グラム二千円の一枚肉を頼んだのは。


 そう思った矢先、いつもクールな女性が物欲しそうに肉を見ているのに気付いた。

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