わがまま
「これでいいかな。」
「あ、もうやってくれたの、助かる。」
中学を卒業して、もう5年。
私たちは成人式に合わせて行う同窓会の準備をしている。
「案内状できたから、見てみて。」
「あいよ。」
胸が痛むのに、それでいて温かい。
彼といると、不思議な感覚が私を襲うのだった。
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それは14歳の女の子の等身大の恋だった。
彼のことをもっと知りたかった、名前を呼ばれると胸が締め付けられた。
いつしか彼の姿を目で追っている自分に気付いた。
それから間もなくして彼に言われた。
「お前のこと、好きだ。」
14歳の夏だった。
彼が私のことを好きだと気づいたとき、私の気持ちは弱くなっていくことに気付いた。
「ごめん、君の気持ちには答えられないや。」
私と彼の間にひんやりした風が通りぬけた。
秋が目の前に迫っていた。
自分でもよくわからなかった。
彼の気持ちが私に向けられただけ、それで満足しているようだと思っていたが、それだけじゃない。
「友達でいよう。ずっと。」
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私たちは同じ高校に進むことが決まっていた。
「春休みの宿題分からねえんだけど、教えて。」
メールが届いた。
「いいよ、どこで?」
指定されたのは、小学校の体育館裏だった。
彼の家はそこから数百メートルの位置にあった。
家に行ってもいいと思ったが、彼がそうしなかったのは、女の子を家に連れて行くのは恥ずかしいのだと思った。
「因数分解って意味わかんねー」
「ここはここが共通してるから…」
私は淡々と説明していく。
ふと顔を上げると、彼との距離が近い。
問題に落とされた眼、ペンを持つ手、胡坐をかいた足、彼の体の一部が次々に目に入る。
生まれて初めての感覚だった。
その時初めて、私と彼二人っきりだということを自覚した。
「もう大丈夫でしょ。」
「ああ。…そういえばお前、薬剤師になりたいんだろ。どうして。」
「薬って面白いじゃない、あんな小さい粒飲んだだけで熱が下がるのよ。薬剤師っていうか、薬にかかわる仕事がしたいの。」
「ふうん。…俺は獣医になりたいから、ちょっと方向似てるかもな。」
「へえ。でも、どうして獣医。動物、好きだったっけ。」
彼がちょっと伏し目になる。
「ああ…」
彼は、昔の話をしてくれた。
それからお互いの夢の話をした。
いつしか日は落ちていた。
それでも、私たちを包むのは温かい風だった。
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春休みのあの日以来、少し意識している自分がいた。
入学式でクラスを確認する。
同じクラスにはなれなかった。
ほんの少し、落胆してる自分がガラスに映った。
新しい友人、新しい環境。
あの時気付いた何かは、その渦の中に消えていった。
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「久しぶり。」
私たちは別々の大学で新しい生活を始めていた。
20歳になり、同窓会を開くことになった。
幹事を集めなくてはならなかった。
私も彼も幹事。
私は久しぶりの連絡。
「久しぶり。」
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「ねえ、私ってわがままね。」