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わがまま

作者: 東條 瑛梨

「これでいいかな。」

「あ、もうやってくれたの、助かる。」


中学を卒業して、もう5年。

私たちは成人式に合わせて行う同窓会の準備をしている。


「案内状できたから、見てみて。」

「あいよ。」


胸が痛むのに、それでいて温かい。

彼といると、不思議な感覚が私を襲うのだった。



__________________



それは14歳の女の子の等身大の恋だった。

彼のことをもっと知りたかった、名前を呼ばれると胸が締め付けられた。

いつしか彼の姿を目で追っている自分に気付いた。


それから間もなくして彼に言われた。

「お前のこと、好きだ。」

14歳の夏だった。


彼が私のことを好きだと気づいたとき、私の気持ちは弱くなっていくことに気付いた。

「ごめん、君の気持ちには答えられないや。」

私と彼の間にひんやりした風が通りぬけた。

秋が目の前に迫っていた。


自分でもよくわからなかった。

彼の気持ちが私に向けられただけ、それで満足しているようだと思っていたが、それだけじゃない。


「友達でいよう。ずっと。」



__________________


私たちは同じ高校に進むことが決まっていた。


「春休みの宿題分からねえんだけど、教えて。」

メールが届いた。

「いいよ、どこで?」


指定されたのは、小学校の体育館裏だった。

彼の家はそこから数百メートルの位置にあった。

家に行ってもいいと思ったが、彼がそうしなかったのは、女の子を家に連れて行くのは恥ずかしいのだと思った。


「因数分解って意味わかんねー」

「ここはここが共通してるから…」

私は淡々と説明していく。


ふと顔を上げると、彼との距離が近い。

問題に落とされた眼、ペンを持つ手、胡坐をかいた足、彼の体の一部が次々に目に入る。


生まれて初めての感覚だった。

その時初めて、私と彼二人っきりだということを自覚した。


「もう大丈夫でしょ。」

「ああ。…そういえばお前、薬剤師になりたいんだろ。どうして。」

「薬って面白いじゃない、あんな小さい粒飲んだだけで熱が下がるのよ。薬剤師っていうか、薬にかかわる仕事がしたいの。」

「ふうん。…俺は獣医になりたいから、ちょっと方向似てるかもな。」

「へえ。でも、どうして獣医。動物、好きだったっけ。」

彼がちょっと伏し目になる。

「ああ…」

彼は、昔の話をしてくれた。

それからお互いの夢の話をした。


いつしか日は落ちていた。

それでも、私たちを包むのは温かい風だった。


__________________



春休みのあの日以来、少し意識している自分がいた。


入学式でクラスを確認する。

同じクラスにはなれなかった。

ほんの少し、落胆してる自分がガラスに映った。


新しい友人、新しい環境。

あの時気付いた何かは、その渦の中に消えていった。


__________________


「久しぶり。」


私たちは別々の大学で新しい生活を始めていた。


20歳になり、同窓会を開くことになった。

幹事を集めなくてはならなかった。

私も彼も幹事。


私は久しぶりの連絡。


「久しぶり。」


__________________



「ねえ、私ってわがままね。」

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