血と涙
母さんと、黒ずくめで身長が高い男と、筋肉質の男の二人組がにらみ合っていた。
母さんはキッチンを背にし、今まで見たことのないような恐ろしい顔で黒ずくめの男を睨んでいた。
黒ずくめの男二人組は、静かに、それでいて威圧感を放つようにただ立っていた。
ときおり母さんに何か語りかけるが母さんは何も答えなかった。
「ね、ねぇ、かあさ」そう言おうとしたとき、
母さんは僕の言葉を遮り、鬼のような形相でこちらを睨んだ。
そして「灰児、きちゃだめ!」とさけんだ。
僕の存在に気づいたらしい黒ずくめの男二人がこちらを向いた。
そして、「ほぉ、子までいたか。」と小さくつぶやいた。
身長が高い男が言った。「吐かぬなら、このガキを殺すまで・・・。」
「やめて!子供は関係ないでしょ!」母さんは叫んだ。
僕は状況を理解できず、何も分からずただ立っていることしかできなかった。
黒ずくめの筋肉質の男の方が右手で何かをつかむように横に突き出した。
その瞬間、右手が光ったと思ったら何もなかった右手に鉄製の剣が握られていた。
男はその剣を構え僕に向かってくる。
「殺される。」ただそれしか頭に浮かばなかった。
しかし僕に向かってきていた男は一瞬で僕の目の前から大きな音を立て吹っ飛んだ。
僕の目が正しければ青い光のようなものが男にあたったように見えた。
ふと母さんを見ると母さんは青く光る右手を前に突き出し荒い息で呼吸をしていた。
「おのれえぇ」
すぐに身長の高い男がもう一人が落とした剣を拾い僕に向かってきた。
動け、動け、殺されるぞ。
そう思っても僕は動けなかった。
刺される。覚悟した瞬間。僕の目の前にふと黒い影が覆いかぶさった。
そして、鮮やかな赤黒い液体が飛び散った。飛び散った液体は僕の顔にもかかった。
僕に覆いかぶさった影は、どさりと音を立てて倒れた。
「母さん!!」僕は倒れたその影、母さんを抱きよせた。
その抱き寄せた手に、生温かい何かが付いた。
まだ生きてはいるがどんどん息が弱くなっている。
「母さん!母さん!」
呼びかけても反応せず、ただ。何かをしゃべろうとした。うまく聞き取れなかった。
そして僕の頬に手を当てると、にっこり微笑み母さんは動かなくなった。
眠るように目をつむった母さんの目から一筋の涙がこぼれた。