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はじまりのとき 1

平凡な生活が続く今日この頃。なんの変動もない学校生活に少し飽きてもきた。高校3年生…何とも中途半端な時期だ。エスカレーター式の私立星翔学園に「受験」の二文字は必要ない。公立高校の友達が言うように受験勉強に追われることも、学校見学にいくこともない。高校3年生から受験を取り除いてしまえば何が残るだろうか…。学校からアルバイトも厳しく禁止されているため、膨大な時間が残るばかりである。学校に行き、部活をし、課題をして、寝て…そして学校…の繰り返し。飽きやすい体質なのでこれといった趣味もない。ふと、空を見上げて思うことは、うんざり、の一言にあっさり帰結してしまう。こんな毎日、ぶち壊してしまいたい…。いっそのこと、地球が真っ二つに裂けるとか海底のメタンガスが一気に噴き出してくるとか…。どうせないらそんな大事件が起きてしまえば…あぁ、どれだけそう思っても何も起こる気配はない。退屈だ…。


屋上の特等席に寝ころびながら一条紫煙いちじょうしえんはため息をついた。どこまでも青い空は体全体を包み込むように暖かく、穏やかな春の風はなんとも言えない眠気を誘っていた。平和…そうこれはどこまでも平和な光景。

「あなたが屋上でサボってる…だなんて考える人、この学校にどれくらいいるんでしょうね」

「……宮崎竜雅みやざきりゅうが

眠気のせいで不覚にも気付かなかったが声に反応して瞼を開けると見慣れた顔があった。少し赤みがかった髪が印象的な生徒会の副会長である。すらっとした長身に程よくついた筋肉、スポーツ万能、成績優秀。そして一見クールな感じにみえるその端正な顔がふと困ったように笑う感じがたまらないと女子生徒から人気も高い。

「いいんですか?生徒会長がこんなことして」

「俺は常習犯だ。今更誰も何もいわない。生徒会長だってなりたくてなったわけじゃないし」

そのたまらないと噂される困ったような笑顔で竜雅は問いかけるが、紫煙は立ち上がり、室内へと戻る扉へと歩いていく。

竜雅はその後ろ姿を見てすっと目を細めた。


男にしておくにはもったいないというくらい、美しいという言葉が当てはまる奴だ。

どこまでも中性的な、高貴でいてさみしげな孤高な雰囲気を持つ…観察体。

観察体にここまで興味をもったのは初めてだ。

地球に来て3年。いろんな人…「地球人」のデータを取ってきた。

それに関しては学校とは実に便利なところだ。

いろいろな思惑をもった個体が集まり、グループをつくり、対立しあい、騙しあい…「人間」と呼ばれる生命体のあり方というものが手に取るようにわかる。

「何考えてるの?」

去ったとばかり思っていた紫煙の声がすぐ隣で聞こえ、思わず大きく距離を取ってしまった。

軍事訓練すら受けていない一般人の気配に気づかないなど…軍人としてあるまじき行為。それもこの平和な星で過ごしている時間のせいだろうか。

答えない俺にしびれをきらし、紫煙は眩しそうに空を仰ぐ。

それはまるで、一枚の絵を見ているようなそんな犯しがたい美しさをもっていた。

黒い瞳、黒い髪。日本人の典型的な容姿だが、一条紫煙のそれは人よりも濃く、深く、神秘的な気がする。

「空に興味あるのか?」

「…そんなこと初めて言われたな」

竜雅の問いに紫煙は驚きの表情を浮かべた。

「別に…興味があるってわけじゃない。この頃、平凡すぎて退屈なんだ。だからかな気が付けば空ばかり見ている。」

…どういう事だろう?彼は人の生のなかでも満ち足りているほうではないのか?いったい何をもって退屈というのだろう。

俺は偵察に来た異星人としてではなく、個人的な好奇心から聞いてみた。

「何が退屈?やることならたくさんあるだろ」

「何って…この変わり映えのしない毎日が、だよ。毎日毎日、朝起きて、学校に行って、勉強して…高校三年だったら大学受験のために頑張れって世間では言われてるだろうけど、大学もエスカレーター…就職先も決まってる。敷かれたレールをただ走るしかない…君だってそう思わない?」

「…まぁ、そういわれれば」

曖昧に返しながら彼が見つめる空の彼方へ目を向ける。そこにはただ、何の変哲もない青いだけの空と雲があった。

 彼は知らないのだ。肉眼で見えるこの空の果てに、無数の生命体がいるということを…。そして、幾度の戦争が繰り返され、領土の争いが起き、この辺境の銀河、太陽系エリアでさえも狙われていると言う事を…。辺境のこの地が、どの星よりも緑が多く、水も豊富にあり、そして、文化を持った生命体が生息できる恵まれた星だと言う事が宇宙連合最高機関から各星へと伝えられたのが本の数年前。表向きに最高機関から許可を得て調査している星は我がディガルノン星を含めて3つ。しかし、他の星が地球を我が物にしようと無断でこの星に偵察員を派遣していること最高機密で母艦から伝わってきている。

それが地球人たちのいうUFOだ。

いずれこの星が宇宙そらの醜い争いに巻き込まれるのも時間の問題…。そうなってしまわぬように竜雅のような調査員がいる。地球人のデータを収集しつつ、無断で地球に潜むものがいないかを探すのが龍雅たち派遣隊員の仕事だ。地球が争いに巻き込まれれば、我が星の軍隊はこの星を守るために兵力を割かねばならないだろう。なにせ、この星の科学力の遅れははなはだしい。だからこそ、この美しい環境が残されているのだろうか…とため息をつく。それにしても、この星のなんと平和で呑気なこと!宇宙での戦いは自分一人がみている白昼夢なのではないかと錯覚させられる、と同時にふと、故郷の星のことが思い出された。母星を出るとき、地球偵察機「ヨルガノン」に乗る日弟とした些細な兄弟喧嘩が懐かしい。

――兄さんはこの星にいなきゃいけないんだ――

自ら進んで、この遅れた星の調査員としてきたのはただ単に父に反発してだ。今おもえば、反抗していたないようすら思い出せない。そんな些細なこと。

当てつけに地球に長期赴任するといったときに弟が言った言葉が思い出される。

この宇宙そらの果て…懐かしい故郷。

父はどうしても俺に一刻も早く帰ってきて欲しいらしく、何度も母艦のほうに連絡が来ているようだが、まだ、帰る気にはなれない。

実際、帰るわけにもいかないのだ。俺を介して母星に送られる情報は重要だと認識している。その上、いつ敵が来るかもわからない状況。偵察の目はおおいに越したことはない。プライドもある。それに…そんなことも建前に過ぎないと感じさせられる目の前にいる美しく謎に包まれた生命体を理解するまでは。竜雅の目は未だ空を見つめる紫煙に注がれていた。


そうやってぼんやりしていたのがいけなかった。いきなり備え付けの超小型マイクロコンピューターが警告を発した。12時の方向、敵影3.偵察用と思われる。しかし、その上部についているのは武器だ。マシンガン装備2.残りは長距離射程を誇るバズーカ砲装備。敵はこちらの存在に気づき、こっちへ向かっている。これはかなりヤバイ状況だ。隣には一般地球人。俺はとっさに左腕に装備されたライフルを取り出した。バリアが外れ視覚的にとらえられるようになったそれはジャコン、と無粋な音をたてると銃口があらわになる。

――あとで紫煙の記憶、消しとかねーと…――

そう思いつつ、竜雅は敵に狙いを定めた。



読んで下さりありがとうございました。

ずいぶん前からおいていた小説をリメイクして投稿してます。

つたないところもあると思いますが、これからもよろしくお願いします。


更新は一週間に一度程度の予定です


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