松村英明
ここ『金森駅』にある喫茶店は、学校のカフェテリアとはまた違った意味で、大通りにあるようなオシャレなカフェとは一線を画している。なにしろ地味な外見なので、暇な主婦の会合や、女子高生の雑談の拠点となる事はまず無さそうだ。ただ、人目によくつく場所というメリットから、待ち合わせによく使われるのではないだろうか。
現に俺は今、昔同級生だった奴と待ち合わせをしている。外から見ても分かるように、ガラス張り側のソファ席に座っているので、見つけにくくはないと思う。
客は、俺を含めてわずか三人。一人はすぐ隣のソファ席でノートパソコンをいじっている制服姿の男子学生だ。縁なしの眼鏡が頭の良さそうな印象を受けさせる。見覚えのある青地のブレザーは、明日から俺が通う暁金高校の制服だろう。
もう一人はその奥にいて、ずっと新聞紙を読んでいる。俺が来る前からそこにいたので性別は分からない。
眼鏡の男子学生がノートパソコンのキーを叩いたり、その奥の人が新聞紙のページをガサガサとめくる音のほかは、あたりは心地よい静寂に包まれていた。
店内の時計が午後五時を指した。待ち合わせの時間は、もうとっくに過ぎている。暇つぶしになるものを持ってこなかったため、ぼんやりと物思いにふけていた。っといっても、数日前に田東京から引っ越して来たため、新しい場所はどうも落ち着けない。気を紛らわす為に考え事をしていると言う方が正しい気もするが。もっぱら店内の装飾とその周囲にいる人間たちの観察に、その主な関心は向けられた。
例えるなら、さっき注文をとりに来てくれたウェイトレス。店のロゴの入ったこげ茶のエプロンを着用していた。黒髪のロングヘアーが奇麗で、「ご注文は?」と聞かれた時の飾り気の無い笑顔には思わずドキッとしてしまった。あまり異性には興味がないが、都会の女性はこんなにもきれいなのだろうか。
そのため、格好つけて頼んだブラックコーヒーには苦戦した。我ながら自分の単純さに呆れてしまう。
それにしても『あいつ』遅いな……。