転生したらブッダだったのでとりあえず出家したら、いつのまにかあがめられるようになったのでスローライフです
「天上天下唯我独尊」
あれ、俺、今なにか言ったかな? てか、俺、赤ちゃん?
そうか、俺、ブラック企業で働いていて過労死したみたいだ。
──んで、転生したのか。
「この子をシッダルタと名付けよう」
誰かなんか言ってるぞ。
俺、『シッダルタ』っていうのか。……どっかで聞いた名前だな。
──10年後
どうやら俺、王太子らしい。
ま、大昔だからスマホはないけど、食事は豪華だし、スパイスも、この時代としては貴重らしい。
いつも美女たちが歌ったり踊ったりしてるし。社畜だったころとはえらい違いだ。
「はー、この城で何不自由なく暮らせるな」
──6年後
「シッダルタよ、そなたもそろそろ結婚せぬか」
「お、俺が結婚? いいの?」
「ヤショーダラでございます。シッダルタさま」
「こ、こんな美人が俺の妻? う……うれしい!」
────
「シッダルタさま……」
「な、何……? ヤショーダラ……」
「子供……できました」
──5年後
ああ、いい暮らしだ。前世では味わえなかったよ。……ところでさ、シッダルタって、もしかしてブッダじゃね?
たしかブッダって、出家して悟りを開いたんじゃなかったかな?
「……どう考えても、出家なんかせずにこのまま暮らした方がいいに決まってんじゃん!」
「王子、お出かけの時間でございます」
家臣の声で、俺はわれに返った。
「ん? どこへ?」
──
「俺、初めて城から外へ出るんだけど」
なんとなくだけど、街はサツバツとしてるなあ。ん?
俺は、東を見た。
「ねえ、あの人なに?」
「あれは老人でございます」
「……なんか……すごく、よぼよぼだな……」
俺は南を見た。
「じゃ、あの人は?」
「あれは病人でございます」
「むむ……ひどいやつれようだな」
俺は西を見た。
「あれは?」
「あれは……死人です」
「マジで? この時代の暮らし、もしかして厳しいの?」
「左様でございます。戦争もありますし、病が流行ることもあります」
「よく考えたら、ワクチンも抗生物質もないし、病気やケガでイチコロじゃん」
「そうです、王子。人はみな、ああやって老いたり病んだりして朽ちていくのです」
それは現代でもそうだったから知ってたけど……実際、じかに見ると生々しいな。正直、ショックだわ。
俺は北を見た。
「ん? じゃ、あれは何?」
「修行僧です」
「すさんだ世の中なのに、あの人らは安らかな顔してるよ?」
「彼らは修行によって苦しみを捨てたのです」
「ふーん……」
──8年後
いくらいい暮らししてても、いずれ年老いて、病に苦しみ、死んでいくのか……。
「……やっぱ出家するわ」
「おやめください、シッダルタさま」
「いや、するよ」
「やめて」
「する」
────
さーて、城を出たはいいが、どうしたものかな。お、なんだあいつらは?
「シッダルタさん、俺たち5人と一緒に修行しませんか」
「お、仲間ができた。いいよ」
「じゃ、いっしょに苦行しましょうか」
(苦行? なんか悪い予感がしてきたぞ……)
──6年後
「……マジ死ねる。苦行きつい。ブラック企業以上だぞ。1日木の実1個しか食わんとか、頭おかしいんか。やめたやめた」
「お、何だ、シッダルタ。お前、裏切るのか?」
あの5人か、うるせーなあ。ほっとけよ。
お、村娘だ。
「乳粥です。シッダルタさん」
「サンキュー、スジャータ。……はー、生き返るわ」
例の5人が、責めるように俺を見ている。
「お前、堕落したな! シッダルタ」
「うっさいハゲ! 苦行なんか意味ないんじゃ」
──そして
「……ついに悟ったぞ……!」
どれ、ちょっと散歩してくるか。
「お、裏切り者のシッダルタだぞ」
「あの5人か。お前ら、ワシもうブッダだぞ」
「マジで?」
「弟子にしてやるぞ」
「なります」
──この後45年間、私はインド各地を旅して人々に教えを説く。
なんせ悟ってるから、あとはスローライフだ。
あるとき、私に罵詈雑言をあびせるアッカサという者がいた。
「何がブッダじゃ、アホ。ただのニートじゃねえか。この詐欺師が」
「アッカサよ、私はそなたの悪口を受け取らない。すなわち、それはあなたのものだ」
「参りました、ブッダさま」
あるとき、バラモン(めっちゃ偉い坊さん)が私に会いに来た。
「あなたは、いやしい身分の者とも付き合うらしいですね」
「人間は、何をしたかで何者かが決まる。生まれではない」
「参りました、ブッダ」
あるとき、子供を亡くした母親がいた。
「ブッダさま、どうかこの子を生き返らせてください」
「それでは、今まで一度も死人を出したことのない家から、ケシの実をもらってきなさい」
「そんな家はありません」
「そうだ。誰であろうと愛するものを亡くす辛さは同じなのだ」
こうして、人々は私の教えに教化されていった。
──ある日、チュンダという男が、私に食事を供養した。
「ブッダさま。キノコ料理です」
「サンキュー、チュンダ。うまいぞ」
──数時間後
「……なんか、めっちゃ腹痛い……」
「ブッダ! しっかり」
弟子たちが私を囲む。しかし、齢80、もはやこれまでか。
「お前たち、がんばって修行しなさい……」
「ブッダ!」
……死んだンゴ。
──2500年後
(……どうやら、また転生したらしい。ここはどこで、私は誰だ?)
なんか、見覚えのある部屋だな。
「お、スマホがあるぞ。2026年か……」
財布に保険証がある……? どれどれ。
「あれ? 『真理 悟』……って、ブッダに転生する前の俺じゃん!?」
まさか、あの80年間が夢だったのか? いや、そんなはずがない。
俺は鏡を見た。額に、前は無かったはずのほくろがある。
「どっちでもいい。俺は、ブッダの記憶で人々を救うんだ」
──公園
太った中年男が、ベンチに座っているのを見つけた。
「おじさん、どこか悪いんじゃないですか?」
「なんだね君は? 確かにワシは肥満で高血圧だが……」
「そういう場合は、食事を減らして運動しなさい」
「……そんなこと、医者にも言われとるし、わかっとるわ!」
おじさんは怒って去って行った。
ふと見ると、友達のマヤがベンチに座っている。
「どうしたのマヤちゃん、元気ないね」
「サトルくん……飼ってたネコが死んじゃってさ」
「それなら、一度も死人を出してない家でケシの実を……」
「はあ? 何それ。意味わかんないし。サイコパスなの? バチン!」
「いてて……ブッタな。マヤちゃん……」
頬をさすりながら、俺は家に帰った。
──
「よし、今度はネットでみんなを教化しよう」
俺はPCで掲示板に書き込む。
『みんな、人生の苦悩から逃れるには、まず、あきらめることが大事なんだよ』
『はあ? お前、マジでそんなこと言ってんの? バカじゃね?』
『脳みそうんこなの?』
むむ、なんというクソレス。不毛な悪口を……よし。
『私はその悪口を受け取らない……』
『効いてる効いてるw』
『急にポエムで草』
お、おかしい。前世ではみんな感服してたのに……どうして??
し、しかし、衆生(普通の人たち)を救うためだ、続けよう。
──こうして、かつてブッダであった俺は、今日も人々を救うための活動を続ける。
「サトルくん、今月の成績が落ちてるよ。困るなあ、しっかりやってもらわないと」
……むむ、ブラック企業のブラック上司か。
「私はすでに立ち止まっている。動いているのはあなただ……」
「はあ!? へりくつ言ってないで働け!」
……ああ、縁なき衆生よ……。
(おわり)




