表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

転生したらブッダだったのでとりあえず出家したら、いつのまにかあがめられるようになったのでスローライフです

掲載日:2026/05/28

 

天上天下唯我独尊てんじょうてんげゆいがどくそん


 あれ、俺、今なにか言ったかな? てか、俺、赤ちゃん?


 そうか、俺、ブラック企業で働いていて過労死したみたいだ。

 ──んで、転生したのか。


「この子をシッダルタと名付けよう」


 誰かなんか言ってるぞ。

 俺、『シッダルタ』っていうのか。……どっかで聞いた名前だな。



 ──10年後



 どうやら俺、王太子らしい。


 ま、大昔だからスマホはないけど、食事は豪華だし、スパイスも、この時代としては貴重らしい。

 いつも美女たちが歌ったり踊ったりしてるし。社畜だったころとはえらい違いだ。


「はー、この城で何不自由なく暮らせるな」



 ──6年後



「シッダルタよ、そなたもそろそろ結婚せぬか」


「お、俺が結婚? いいの?」


「ヤショーダラでございます。シッダルタさま」


「こ、こんな美人が俺の妻? う……うれしい!」


 ────


「シッダルタさま……」


「な、何……? ヤショーダラ……」


「子供……できました」



 ──5年後



 ああ、いい暮らしだ。前世では味わえなかったよ。……ところでさ、シッダルタって、もしかしてブッダじゃね? 


 たしかブッダって、出家して悟りを開いたんじゃなかったかな?


「……どう考えても、出家なんかせずにこのまま暮らした方がいいに決まってんじゃん!」


「王子、お出かけの時間でございます」


 家臣の声で、俺はわれに返った。


「ん? どこへ?」


 ──


「俺、初めて城から外へ出るんだけど」


 なんとなくだけど、街はサツバツとしてるなあ。ん?

 俺は、東を見た。


「ねえ、あの人なに?」


「あれは老人でございます」


「……なんか……すごく、よぼよぼだな……」


 俺は南を見た。


「じゃ、あの人は?」


「あれは病人でございます」


「むむ……ひどいやつれようだな」


 俺は西を見た。


「あれは?」


「あれは……死人です」


「マジで? この時代の暮らし、もしかして厳しいの?」


「左様でございます。戦争もありますし、病が流行ることもあります」


「よく考えたら、ワクチンも抗生物質もないし、病気やケガでイチコロじゃん」


「そうです、王子。人はみな、ああやって老いたり病んだりして朽ちていくのです」


 それは現代でもそうだったから知ってたけど……実際、じかに見ると生々しいな。正直、ショックだわ。


 俺は北を見た。


「ん? じゃ、あれは何?」


「修行僧です」


「すさんだ世の中なのに、あの人らは安らかな顔してるよ?」


「彼らは修行によって苦しみを捨てたのです」


「ふーん……」



 ──8年後


 いくらいい暮らししてても、いずれ年老いて、病に苦しみ、死んでいくのか……。


「……やっぱ出家するわ」


「おやめください、シッダルタさま」


「いや、するよ」


「やめて」


「する」


 ────


 さーて、城を出たはいいが、どうしたものかな。お、なんだあいつらは?


「シッダルタさん、俺たち5人と一緒に修行しませんか」


「お、仲間ができた。いいよ」


「じゃ、いっしょに苦行しましょうか」


(苦行? なんか悪い予感がしてきたぞ……)



 ──6年後



「……マジ死ねる。苦行きつい。ブラック企業以上だぞ。1日木の実1個しか食わんとか、頭おかしいんか。やめたやめた」


「お、何だ、シッダルタ。お前、裏切るのか?」


 あの5人か、うるせーなあ。ほっとけよ。

 お、村娘だ。


乳粥ちちがゆです。シッダルタさん」


「サンキュー、スジャータ。……はー、生き返るわ」


 例の5人が、責めるように俺を見ている。


「お前、堕落だらくしたな! シッダルタ」


「うっさいハゲ! 苦行なんか意味ないんじゃ」



 ──そして



「……ついに悟ったぞ……!」


 どれ、ちょっと散歩してくるか。


「お、裏切り者のシッダルタだぞ」


「あの5人か。お前ら、ワシもうブッダだぞ」


「マジで?」


「弟子にしてやるぞ」


「なります」



 ──この後45年間、私はインド各地を旅して人々に教えを説く。

 なんせ悟ってるから、あとはスローライフだ。



 あるとき、私に罵詈雑言ばりぞうごんをあびせるアッカサという者がいた。


「何がブッダじゃ、アホ。ただのニートじゃねえか。この詐欺師が」


「アッカサよ、私はそなたの悪口を受け取らない。すなわち、それはあなたのものだ」


「参りました、ブッダさま」



 あるとき、バラモン(めっちゃ偉い坊さん)が私に会いに来た。


「あなたは、いやしい身分の者とも付き合うらしいですね」


「人間は、何をしたかで何者かが決まる。生まれではない」


「参りました、ブッダ」



 あるとき、子供を亡くした母親がいた。


「ブッダさま、どうかこの子を生き返らせてください」


「それでは、今まで一度も死人を出したことのない家から、ケシの実をもらってきなさい」


「そんな家はありません」


「そうだ。誰であろうと愛するものを亡くす辛さは同じなのだ」


 こうして、人々は私の教えに教化されていった。



 ──ある日、チュンダという男が、私に食事を供養した。


「ブッダさま。キノコ料理です」


「サンキュー、チュンダ。うまいぞ」


 ──数時間後


「……なんか、めっちゃ腹痛い……」


「ブッダ! しっかり」


 弟子たちが私を囲む。しかし、よわい80、もはやこれまでか。


「お前たち、がんばって修行しなさい……」


「ブッダ!」



 ……死んだンゴ。



 ──2500年後



(……どうやら、また転生したらしい。ここはどこで、私は誰だ?)


 なんか、見覚えのある部屋だな。


「お、スマホがあるぞ。2026年か……」


 財布に保険証がある……? どれどれ。


「あれ? 『真理まさみち さとる』……って、ブッダに転生する前の俺じゃん!?」


 まさか、あの80年間が夢だったのか? いや、そんなはずがない。


 俺は鏡を見た。額に、前は無かったはずのほくろがある。


「どっちでもいい。俺は、ブッダの記憶で人々を救うんだ」



 ──公園


 太った中年男が、ベンチに座っているのを見つけた。


「おじさん、どこか悪いんじゃないですか?」


「なんだね君は? 確かにワシは肥満で高血圧だが……」


「そういう場合は、食事を減らして運動しなさい」


「……そんなこと、医者にも言われとるし、わかっとるわ!」


 おじさんは怒って去って行った。

 ふと見ると、友達のマヤがベンチに座っている。


「どうしたのマヤちゃん、元気ないね」


「サトルくん……飼ってたネコが死んじゃってさ」


「それなら、一度も死人を出してない家でケシの実を……」


「はあ? 何それ。意味わかんないし。サイコパスなの? バチン!」


「いてて……ブッタな。マヤちゃん……」


 頬をさすりながら、俺は家に帰った。


 ──


「よし、今度はネットでみんなを教化しよう」


 俺はPCで掲示板に書き込む。


『みんな、人生の苦悩から逃れるには、まず、あきらめることが大事なんだよ』


『はあ? お前、マジでそんなこと言ってんの? バカじゃね?』


『脳みそうんこなの?』


 むむ、なんというクソレス。不毛な悪口を……よし。


『私はその悪口を受け取らない……』


『効いてる効いてるw』


『急にポエムで草』


 お、おかしい。前世ではみんな感服してたのに……どうして??


 し、しかし、衆生しゅじょう(普通の人たち)を救うためだ、続けよう。



 ──こうして、かつてブッダであった俺は、今日も人々を救うための活動を続ける。



「サトルくん、今月の成績が落ちてるよ。困るなあ、しっかりやってもらわないと」


 ……むむ、ブラック企業のブラック上司か。


「私はすでに立ち止まっている。動いているのはあなただ……」


「はあ!? へりくつ言ってないで働け!」



 ……ああ、えんなき衆生しゅじょうよ……。



(おわり)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
ループしたら、時代の変化で悟りも通用せず……諸行無常
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ