表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。

大森チサの妄想

作者: 辻梢絵
掲載日:2026/04/15

ベースは、ep.24『昨日までと、今日の私』の夕日の河川敷シーン、ep.25の『等身大の結論』の教室とノブの部屋のシーンです。

松田アヤ 監修、大森チサ 著:『残光の檻、あるいは少年の秘め事』


〇夕闇の河川敷


俺の名前は田中ノブヒロ、中学三年だ。

そして、夕日に照らされて、奇跡みたいな輝きを放っている隣のこいつは……俺の愛する彼女(男)、和泉アキラ。


見てくれ、この、絹糸みたいに滑らかで、光を透かす蜂蜜色の髪。

少し伏せられた睫毛の先には、宝石みたいに澄んだ、琥珀色の瞳が隠されている。

そして、夕風に吹かれて少し上気した、桃の花びらみたいに柔らかそうな、唇……。


……ああ、もう。

こいつが横にいるだけで、俺の世界は、キラキラとした光に満たされて……同時に、酷く独占欲に掻き立てられる。

誰にも見せたくない。この可愛さを、俺だけのものにしたい。


そんな、俺の内心の混迷を知ってか知らずか。

アキラが、わざとらしく、湿り気を帯びた瞳で俺を覗き込んできた。


「……なあノブ」

「ん?」


「お前は、“オレ”と“私”……どっちに『犯されたい』?」


「……っ、ああ!?」

キラキラとした光が一瞬で霧散し、ドロリとした熱が俺の脳内を支配した。

俺は絶句し、視線を鋭く逸らす。耳たぶが、夕日よりも赤く焼けているのが自分でも分かる。


「……どっちでも、いいと思うぞ。お前がお前なら」


「ふーん」

アキラの薄い唇が、三日月のように吊り上がる。

その瞬間、アキラの可愛さは、獲物を追い詰める魔性の魅力へと変貌した。

一歩。

靴が草を踏む乾いた音を立てて、逃げ場を奪うように距離を詰める。


「じゃあさ——」


アキラは俺のシャツの襟元を指先でなぞり、耳元で吐息をこぼす。

「……ノブくん。“私”のこと、めちゃくちゃにしたい?」


「なっ……!!」

俺は弾かれたように振り向く。

近すぎる。互いの睫毛が触れそうな距離。アキラの瞳の奥に、俺を試すような、愉悦の光が宿っている。


「なに急に言い出すんだよ……! それに『ノブくん』って、お前……ッ!」


俺の喉仏が、苦しげに上下した。

かつては俺の支配下に置いていた、守るべき存在だった幼馴染。

それが今、挑発的な「女(私)」を演じて、俺の理性を一億万倍のスピードで破壊しにかかってくる。


「あー、うん」

アキラはわざとらしく肩をすくめ、俺の胸にそっと手のひらを置いた。トクトクと暴れる鼓動が掌に伝わってくる。

「やってみたら、お前がどんな顔で壊れるか、見たくなっちゃって」


「お前……そういうの、反則だって……っ」

俺は声を震わせ、逃げるように顔を背ける。


「反則って何だよ。具体的に教えてくれよ、ノブ」

アキラはさらに踏み込む。逃げ場はない。背後の土手は、二人を閉じ込める檻のように高くそびえていた。


「……そのままの意味だよ。……無自覚に誘うのは、やめろ」


「なんで? お前の理性が、困るからか?」

アキラの指が、俺の首筋を這い上がる。

その瞬間、俺の中で、何かが音を立てて崩れ去った。


(……くそ、もう限界だ)


俺はアキラの細い手首を掴み、そのまま土手の斜面へと押し倒した。


「……っ、は? おまっ……!」

草の匂いと、アキラの甘い匂いが混ざり合う。

アキラは目を見開いて、俺を見上げている。その瞳に、初めて恐怖と、そしてそれ以上の、熱い期待が宿ったのを俺は見逃さなかった。


「……俺がどれだけ、お前を組み伏せたい衝動を抑えてるか……知らねえのかよ……!」


俺はアキラの顔の横に手を突き、逃げ場を完全に塞ぐ。

夕闇が二人の輪郭をどろりと溶かしていく。


「……試すなよ、アキラ」


低く、獣のような唸り声。

俺の顔がアキラの首筋に埋められ、熱い吐息が皮膚を焼く。

その瞬間、アキラの身体が小さく震え、俺の背中に手が回されたのを……俺は、確かに感じた。


-----------------------------------


〇校内・教室(休み時間)


降り注ぐ昼下がりの光が、机に突っ伏したアキラのうなじを、透き通るように照らしている。

俺は、その白く脆そうな細い首筋に、喉を鳴らしたくなるような衝動を必死に抑えていた。


伸ばしかけた指先が、空中で一度、怯えたように静止する。

……けれど。

吸い寄せられるように、俺は掌をその華奢な背中に沈めた。


ピクリ、とアキラの肩が震える。

「アキラ」


自分で自分の声が、一億万倍に甘く、重く響くのが分かった。

「今日、来い」


パッと顔を上げたアキラの瞳は、まるで迷い込んだ仔鹿のように、行き場を失って揺れている。

「え……?」

「……ちゃんと話がしたい。昨日の、あの土手でのことも。……今の、この狂おしい気持ちも」


アキラは、俺の熱を孕んだ視線を拒むように、目を逸らす。

「……二人で背負うんだろ?」


その言葉に、アキラの呼吸が止まる。

一億万倍に重い、愛という名の十字架。

「……そうだな」

小さく頷いたアキラの耳たぶは、夕焼けよりも毒々しく、紅く染まっていた。


----------------------------------


〇ノブの部屋


カーテンを閉め切った薄暗い部屋。

いつもの丸テーブルを挟んで座っているのに、その距離は、一億万倍に遠くて、一億万倍に近い。

密閉された空間に、二人の体温だけがよどみ、混ざり合っていく。


「今日は……かーちゃんはパートでいねえ」


俺の声が、不自然に低く沈む。

それは合図だった。

俺はテーブルを乗り出し、アキラの手首を掴んで、一気に自分の膝の上へと引き寄せた。


「っ……ノブ!?」

「『背負う』って言っただろ。……お前の不安も、俺のこの、壊れそうなほどの独力欲も……全部だ」


俺はアキラの腰に腕を回し、逃げ場を奪うように深く抱きしめた。

アキラの細い指先が、俺の制服の裾をぎゅっと掴む。


「……怖えよ、ノブ。お前が、俺をどうしたいのか……」

「俺にも分からねえよ。ただ、お前が『私』の顔をして俺を試すたびに、俺の中の理性が、一億万倍のスピードで真っ白になるんだ」


俺は、アキラの耳元に唇を寄せ、熱い吐息とともに囁いた。


「昨日の続き……。俺を、これ以上『我慢』させるな」


アキラの首筋に顔を埋めると、甘い石鹸の匂いと、少年特有の酸っぱい熱気が鼻を突く。

俺の手は、アキラの背中を、まるで形を確かめるように、強欲になぞり上げた。


「……好きだ、アキラ。……壊したいほど、愛してる」


アキラの小さな呻き声が、俺の胸の中に溶けていく。

閉ざされた扉の向こう側。

二人の少年の、一億万倍に不完全で、一億万倍に濃密な「話し合い」が、静かに始まろうとしていた。

----------------------------------------------


「なあ、大森、お前何書いてんだ?」


「ハッ?!」


突然―、アキラくんが横からヒョコリと顔を出してきた。


(近い近い近い近い近い近い)


「こ、こここれは神聖な観察日誌であって、極秘な魔導書(グリモア)であって、決してやましいことには使用しておらず―」


「お前何いってんだ?」


言えない。これを文芸部のみんなで"消費"しているなんて事は、絶対に―。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ