第2話:目立ちすぎて門前払い? 桃色の猪と初上陸の村
異世界転生初日。
俺ことアルドは、人生二度目の「朝」を迎えた。
……と言っても、目が覚めたのはふかふかのベッドの上ではない。
巨大な猪——バーストボア(現在は桃色の煙を吹く大人しい珍獣)の、毛足の長い背中の上だ。
「ふごぉ……ふごぉ……」
ボアの寝息に合わせて、俺の体も上下に揺れる。
昨晩、自爆した鍋から生まれた「謎の黄金結晶」を食べさせた結果、この森の暴君はすっかり俺に懐いてしまった。
本来は触れるだけで火傷するほどの熱を放つ魔物らしいが、今はなぜか「心地よい床暖房」程度の温度に落ち着いている。これもおそらく、俺の『万物の機能不全』がボアの生体機能にまで干渉した結果だろう。
「さて……まずは人里を探さないとな」
俺はボアの背を叩いて起こすと、適当な方角へと歩き出した。
ここで、俺の持っている三つのギフト——もとい、呪いをおさらいしておこう。
一つ、『万物の機能不全』。
何かを作れば必ず本来とは違う結果になる。昨日の爆発ポタージュ結晶がその筆頭だ。
二つ、『厄災の招き手』。
放っておいてもトラブルが向こうから歩いてくる。このボアに襲われたのもこれのせいだろう。
三つ、『極彩色の存在感』。
隠密不可。とにかく目立つ。
「……三つ目が、一番厄介かもしれないな」
今もそうだ。
歩いているだけなのに、周囲の小動物や鳥たちが一斉に俺の方を向き、釘付けになっている。まるでスポットライトを常に浴びているような感覚だ。
森の中でもこれなら、町に行ったらどうなることか。
そんな不安を抱えながら、ボアに乗って進むこと数時間。
ようやく森が開け、頑丈な石造りの城壁に囲まれた大きな村——いや、小さな町が見えてきた。
「おお、文明の香り! これだよ、これ。ギルドに登録して、クエストをちょちょっとこなして、報酬で美味しいお酒を飲む。これぞスローライフの第一歩!」
期待に胸を膨らませ、ボアの速度を上げる。
だが、町まであと数百メートルというところで、異変に気づいた。
「……あれ? なんか鐘が鳴ってないか?」
カァァァァン! カァァァァン!
と、激しく打ち鳴らされる警鐘の音。
町を囲む城門が慌ただしく閉じられ、壁の上には弓を構えた兵士たちがズラリと並んでいる。
「敵襲か!? 大変だ、早く中に入れてもらわないと!」
俺が加速させると、壁の上から野太い声が響いた。
「止まれッ! 止まらねば射抜くぞ、この『極彩色の魔王』め!!」
「……魔王?」
俺は周囲を見渡すが、後ろには誰もいない。
どうやら、その「魔王」というのは俺のことらしい。
「待ってください! 俺はただの旅人です! この猪は……ええと、その、ペットなんです!」
「馬鹿を言え! あの不気味な桃色の煙を纏うバーストボアを従え、全身から隠しきれないほどの威圧感(※存在感ギフトの効果)を放つ者が、ただの旅人なわけがあるか!」
兵士の顔は青ざめている。
どうやら『極彩色の存在感』のせいで、俺が放つオーラが「強者の威圧」に変換されて伝わっているようだ。
しかも、ボアが吐き出す桃色の煙。
これ、俺にとっては「いい匂い」なのだが、向こうからすれば「未知の毒煙」に見えるらしい。
「困ったな……。このままだと野宿確定だ。あ、そうだ」
俺はふと思いついた。
昨日の「黄金の結晶」を差し入れれば、少しは話を聞いてくれるかもしれない。
俺はボアの背から降りると、懐からいくつかの結晶を取り出した。
だが、ただ渡すだけでは芸がない。
ちょっとした「贈り物」に見えるよう、手近な木の枝と蔓を使って、結晶を包む簡易的なバスケットを作ろうとした。
——ここが運命の分かれ道だった。
俺には『万物の機能不全』があることを、すっかり失念していたのだ。
俺が木の枝を編もうと指を動かした瞬間。
バキバキッ! という不気味な音が辺りに響いた。
枝は編み込まれるどころか、急速に結晶化し、周囲の魔力を吸い取って巨大な「造形物」へと変貌していく。
「おい、何をしている!? 何か強力な術式を構築しているぞ!」
「防壁展開! 総員、衝撃に備えろ!」
壁の上の兵士たちがパニックに陥る中、俺の手の中で完成したのは。
バスケットではなく——**『空中に文字を投影する、巨大な黄金のディスプレイ看板』**だった。
そこに浮かび上がった文字は、俺の意図を完全に無視してこう記されていた。
【絶品・黄金飴 一個一〇〇円(換算:銅貨一枚) ※魔王の祝福つき】
「違う、そうじゃないんだ!!」
俺の叫びも虚しく、黄金の看板は眩い光を放ち、町中にその存在をアピールし始める。
しかし、奇跡はここから起きた。
あまりの光景に圧倒されていた門番の一人が、極度の緊張からか空腹で倒れ込んだのだ。
その拍子に、俺が投げ入れようとした結晶が、偶然にも彼の口の中へと吸い込まれた。
「……ッ!?!?!?」
倒れた門番の全身が、黄金の光に包まれる。
次の瞬間。
彼は飛び起きた。それどころか、長年の激務で痛めていた腰や肩が完治したのか、全盛期を上回るキレで壁の上を跳ね回った。
「な、なんだこれは……!? 力が、力がみなぎる! これほど清浄で強大な魔力、見たことも聞いたこともないぞ!」
壁の上の空気が一変した。
恐怖の対象だった俺が、一瞬にして「とんでもないお宝(または奇跡の薬)を持ってきた、高位の聖者」へと格上げされたのだ。
「……おい、今すぐ門を開けろ! あのお方は魔王ではない、失われた古代の製法を知る『黄金の錬金術師』様だ!」
ガラガラと音を立てて開く重厚な城門。
俺はボアと共に、呆然としたまま町へと足を踏み入れた。
「……これ、スローライフって言えるのかな」
町に入った瞬間、跪く兵士たちと、物珍しそうに集まってくる住人たち。
その視線の中心で、俺はこれからの多難な生活を確信し、深く溜息をつくのだった。
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