プロローグ①「絶望とカミングアウト」
プロローグ①「絶望とカミングアウト」
来る春の朝、街は淡い光に包まれていた。
この物語の主人公¨神宮カナタ¨は
布団の中で目を覚まし、手足を伸ばす。
今日は桜ヶ丘高校の入学式だ。
天井の明かりがまだ柔らかく、窓の外の桜景色が微かに揺れる。
大鏡の前に立ち、服を整える。
絹のショーツ、白のブラウス、
どれも見慣れた服装だが、
カナタには窮屈に感じられた。
――ー今日も、体は女の子ーーー
カナタは誰から見ても美少女だった。
銀色の髪は腰までまっすぐに伸び、光を受けて微かに透けるように輝く。
整った眉に、長いまつげ。透き通るような
白い肌。
瞳は淡い青色で、光の角度によってはまるで宝石のように輝いて見えた。
小さく形のいい唇がその顔を引き締め、どこか
儚げで、見た者に息を呑ませる。
そうまさに¨美少女¨そのものだった。
だが、カナタにとってそれは誇りではなかった。
鏡を見るたびに、そこに映る「女の子らしい」
自分の顔が、受け入れられなかった。
ーーカナタは身体が女の子、心が男の子ーー
ーーー所謂トランスジェンダーであるーーー
思えば小学生の頃から違和感はあった。体育の
授業や着替えの時間、鏡に映る自分の姿が
カナタにはいつも他人に見えた。
それは第二次性徴で顕著に現れ、身長も160センチで止まってしまい、、好きだったサッカーや
バスケでも活躍できなくなってしまった。
「どうして俺だけ……」カナタは当時そんな言葉を自身に何度も投げかけた。心の奥で、何度も自問した。
だがカナタは中学時代、身体の変化に抗えず、やがて諦めてしまった。鏡の前で自分を見ても、そこに「自分」はいなかった。だからみんなに合わせた。
そうやって¨自分¨を少しずつ殺していった。
………それが仇となった。
何も感じないはずの心が、気づけばボロボロになっていた。
「……高校では、最初から自分らしく──」
カナタは小さく息を吸い込み、つぶやいた。
そしてカナタは鏡の前に立ち、新しい制服を整える。
長いズボン、肩までのジャケット、
胸元のネクタイ。。
この男子制服はカナタの決意の表れだ。
カナタは今日という日のことを思う。初めての環境。新しい人たち、見知らぬ教室。
「今日、言おう。」
胸の奥で、静かにそう呟く。
そうして新しい制服に着替え
カナタは、リビングに向かった。
「って、、やっぱりもう行ってるか………」
カナタの母と父は共に会社勤めで朝7時には家にいない
「母さんは制服姿見てなんて言うだろう、、、」
そう思いながらカナタは朝食を食べ、、、胸ポケットに入学許可証を握りしめ学校の支度を終えた、、、
「行ってきます………」
そう言うとカナタはマンションからそそくさと出ていった。
制服の袖を軽く握りしめながら、カナタは無言で歩道を歩く。
「今日から高校生か……」
小さくつぶやいた声は、車の音にすぐ消された。
「…………」
カナタは中学時代を回想していた。。。
「宜しくお願いします。¨私は¨神宮カナタです。可愛いものが好き、、、です……」
思えば声も作っていたと思う。できるだけキャラも理想の女の子に近づけた。。。
「ふふ、、、私もそう思うよ、、!!」
無理してキャラを作っていた¨あの頃¨、、何故かは分からないが頭の中はそれで一杯だった。
「君が好きなんだ………!!」
「オレと、、オレと付き合って下さい!!」
カナタは男の恋人が欲しかった訳ではない、、友達が欲しかったのだ。。。
「…………」あの気持ちの悪さは今でも思い出す。。決意を固めたはずなのに………
カナタはそんな事を考えている内に駅前に着いた。
「ちょっと、見て見て!これ昨日の写真〜!」
「やば、顔盛れすぎ〜!」
「〇〇ちゃん消してよっ!」
駅前の歩道には、制服姿の高校生たちが群れをなして揺れ、笑い声が飛び交っていた。
それはとても楽しそうでカナタもあの中に入っていたのかな…と想像してしまうほどだった。
カナタは目を伏せながら歩く。
「………どうせ友達なんて出来っこないな」
カナタは外の世界の明るさとは裏腹に、心の中で佇む孤独感、悲壮感に過去の経験から慣れてしまっていた。
「トランスジェンダーの事を告白したら皆んな周りから逃げていく。。
誰もオレの味方になってなんて、、くれない」
カナタはトランスジェンダーを友人に告白したら距離を取られてしまうことを過去の経験から学んでいた。
だから誰1人信用してはいなかった。ただ1人を除いては、
「……カナタ?」
名前を呼ばれ振り向くと、そこに立っていたのは、
幼稚園や小学校でいつも隣にいた幼なじみ。だが中学で別れて以来、一度も会う事はなかった
星影「ヒカリ!?」
そう、星影ヒカリの姿がそこにはあった。
ヒカリは身長160センチ程、金髪で、
瞳は澄んだ青色で、光を受けて少し輝いている。丸みを帯びた顔立ちは幼い頃の面影を残しつつ、ほのかに大人びた雰囲気もあった。
ヒカリは目を大きく見開き、首をかしげながら笑った。「やっぱりカナタだー!!」
ヒカリは両手を広げ、カナタを抱きしめた。
体が弾むたびに銀色の髪が揺れ、春の光を反射してきらきらと輝く。
「ヒ、ヒカリ……!」カナタは少し驚きつつも、懐かしい温かさに包まれる。
カナタが生涯で初めて恋をした人物それが星影ヒカリであった。。
「本当に久しぶり!なんだか…夢みたい!!」
ヒカリは嬉しそうにカナタの肩をポンポンと叩く。
「まさかこんな所でヒカリに会えるなんて、、」
とカナタは少し照れくさそうに笑った。
だが星見ヶ丘高校の学生証が見えた途端、
ヒカリの反応が変わった。
「………!もしかしてカナタも星見ヶ丘高校!?
私もその高校だよ!!!!」
「………え!?本当に⁉︎」
カナタが目の前の制服を見ると確かにヒカリと制服こそは違うが同じ色、同じ柄、同じデザインであった。
「本当に一緒だ、、、!」
と、、カナタは驚きを隠せなかった。。
「私、、カナタと同じ高校で嬉しいよ!!
三年間仲良くしよーね!!」
とヒカリはまっすぐな目で手を差し出した。
だが、その手を見つめた瞬間
カナタの心が、かすかに止まった。
カミングアウトのことを、思い出してしまったのだ。
「ヒカリに迷惑をかけるな」誰に言われたわけでもない。けれど、胸の奥からそんな声が響いて、カナタの動きを縛った。
「……………」
その手を取る事は出来なかった。。。
「ねぇカナタ! クラスって何組?」ヒカリは首をかしげ、目を輝かせながら聞く。
「あー、えっと……この学校、小さいからクラス一つしかないんだよ。。」とアオイは少し笑って答える。
「え………1クラスしかないの!?」ヒカリは驚き、声を上げた。
「まぁ田舎だからね。大きい学校が羨ましいよね、、、」
カナタは少し照れくさそうに微笑む。
「でも一クラスにも良いことろはあるよ」
「………?」
カナタは素直に首を傾げた。
「それはね…」
「2人で一緒にいられること!!」
周りに聞こえる大きな声でヒカリは答えた。。
「ヒカリのバカ、、、!!」
カナタは少し顔を赤くして答えた。だが思いと裏腹にカナタは胸の奥が少し高鳴るのを感じた。
「そういえば、、、この学校スカートじゃなくてズボンもあるんだね、、!!」
「なんでカナタはズボンにしたのー?」
「……………!!」
ーーー今だ、言わなきゃーーー
「ヒカリ、その事なんだけど……」唇が動く。けれど、声が出ない。無邪気に笑うその瞳を見て、カナタの喉はすぐにつまった。
「どうしたの?」
「…………」
「…………ううん、なんでもない」
自分でも、なぜ言えなかったのか分からなかった。ただ、胸の奥が………痛かった。。。
「ズボンでもスカートでも関係なくカナタは可愛いよ!!」
とヒカリはにっこり笑いながら言った。
「あはは、、ありがとう。。」
カナタはそう言いながら、ぎこちなく手を胸の前で握りしめた。
心臓が早鐘のように打ち、言葉にできなかった想いが胸の奥で渦巻いていた。
そして電車が着き、学校が向かう途中でも2人は会話を続けていた。
放課後、一緒に遊んだ公園、休み時間に教室で笑い合った日々。など議題はさまざまだった。
「なんだか不思議だね……たった3年前の事なのに、なんだかもうずーっとずーっと昔のことみたい」
とヒカリはふわりと笑い、視線を遠くの校舎に向けた。その目には懐かしさと、柔らかな光があった。
「まぁもう3年も前の事だからね。。。」
とカナタは小さく肩をすくめた。
言葉とは裏腹に心の中はざわついていた。
カナタは1番聞きたかった事をまだ聞けずにいたのだ………
「……あのさ、ヒカリ」
声を出そうとすると、少し震えてしまった。
「………?」
ヒカリは首を少し傾げ、真剣な瞳でカナタを見つめる。
「ヒカリって、、その、、恋人とかって、、」
言葉を絞り出した瞬間、胸の奥が締め付けられる。
「カナタ………大丈夫?」
「え、!?」
カナタは驚き、目を大きく見開く。
「私、、こんなに悲しそうな顔してるカナタ初めて見た………」
ヒカリは一歩近づき、そっとカナタの肩に手を置く。その温かさが、胸の奥の痛みにじんわりと染み渡る
「ヒ、ヒカリ……」
言葉が小さく零れた。
「私、、カナタが困ったり、悩んでいたりするのなら力になりたいの、、!!それが三年間会えなかった私のできることなんだもん。。。」
ヒカリは必死に伝えようと、両手を軽く握りしめながら、まっすぐにカナタの目を見つめている。
「ヒカリは、、、」
「ヒカリはもし私が、たとえこの先みんなと
違う道を選んでも……側にいてくれる?」
カナタの声はかすかに震えて、途切れそうになる。
「私はどんな時でもカナタの味方だよ……!」
ヒカリは微笑みながら、優しく頷いた。
その言葉に、カナタは肩の力がふっと抜けるのを感じた。
長く閉じ込めていた胸の内を、初めて誰かに受け止めてもらえたような気がした。
「ありがとう……」
ヒカリは笑顔で頷いた。。。胸の奥が軽くなり、心の中の重みが溶けていくのを感じた。
絶望とカミングアウト①




