9話 大騒動
スノーマンは、目的地である迷宮へ向かう途中、
ひとつの巨大な関所を見つけた。
その門を越えれば――
隣国へと足を踏み入れた証となる。
すでに夜。
門前に人の姿はなく、
重厚な門扉は固く閉ざされている。
だが、門の上。
見張りの兵士だけは、確かにそこにいた。
「……あれか」
スノーマンは立ち止まることなく、
問答無用で跳んだ。
地面が砕けるほどの踏み込み。
そして――
巨大な銀色の影が、
門を軽々と飛び越えていく。
その光景を、
見張りの兵士は決して見逃していなかった。
(……とてつもない……)
(魔物が……
門の上を……飛び越えた……?)
兵士の喉が鳴る。
(間違いない……
あれは、アイスヴェルに棲む――
アイスベアだ!!)
しかも。
(二足歩行……!?
あの跳躍力……
あり得ない……!!)
次の瞬間、
関所に警鐘が鳴り響いた。
――――――――!!
一斉に兵士たちが集まり、
見張りは必死に叫ぶ。
「大変だ!!」
「あ、あ、アイスベアが!!
門を……門を飛び越えて行った!!」
「見ろ!!
これが証拠だ!!」
兵士は地面に落ちていた
銀色の毛を掴み、掲げる。
「偽物じゃない……!
本物の毛だ!!」
空気が、一瞬で凍りついた。
「……嘘だろ……」
「アイスベアが……
国境を……?」
「し、しかも夜中に……?」
混乱が爆発する。
「急げ!!」
「すぐに知らせろ!!」
「お前たちは追跡しろ!!
行方を見失うな!!」
「俺は王都へ報告する!!」
こうして関所では、
とんでもない規模の騒動が動き出していた。
◆
――そのすべてを、
スノーマンは知らない。
彼の心にあったのは、
ただひとつ。
(まぁ……
アイスベアが一匹通ったくらいで、
そこまで騒ぎにはならないだろう)
それだけだった。
だが、この“たった一度の跳躍”が、
どれほどの事態を引き起こしているのか――
彼は、露ほども理解していない。
遠くに、
目的地が見え始める。
「あそこ……か」
汗だくになりながら、
彼は呟く。
「にしても……
こんなくそ暑いところで……」
「みんな……
大変だな……」
視線を前に向け、
静かに、だが確かな声で言う。
「……必ず、助けてやるよ」
「お互い様、だからな」
そうしてスノーマンは、
とてつもない速度で
迷宮へと駆けていった。




