8話 灼熱の世界
スノーマンは、すでに夜の中を駆けていた。
雪原を裂くように、
銀色の“巨大な熊”が――
二足歩行で、異様な速度で走り抜けていく。
その光景を目にした魔物たちは、
決して手を出そうとはしなかった。
アイスベア。
ただでさえ、
一戦交えれば屈強な魔物であろうと
無傷では済まない相手だ。
そのアイスベアが、
常識外れの速度で、
しかも二足で走っている。
――異常。
それ以外の言葉が見つからない。
ゆえに魔物たちは、
本能的に理解する。
近づいてはいけない。
彼らは争うことなく、
そっと距離を取り、
道を空けるように身を引いていった。
その様子を横目に、
スノーマンはふと思う。
(……そうか)
(この着ぐるみ……
魔除けにもなるのか)
(なら、次からも使うとするか)
だが――
それは、まったくの勘違いだった。
スノーマンという男は、
どんな格好をしていようと、
魔物たちは逃げる。
あまりにも強く、
あまりにも容赦がなく、
そして――
戦うという選択肢すら与えない存在だからだ。
アイスベアが相手なら、
それはまだ「戦い」と呼べる。
だが、
スノーマンが相手なら違う。
それは戦いではない。
生き延びられるかどうか。
ただそれだけを、
魔物たちに突きつける存在。
スノーマンは、理解していなかった。
自分が、
どれほど強いのか。
「厄災」と呼ばれる存在が、
どれほどのものなのか。
そして――
厄災を通り越した自分が、
外の世界から
何と呼ばれているのかも。
◆
◆
そうして夜を駆け抜け、
やがて雪の積もっていない地に辿り着く。
着ぐるみの中は、
汗でじっとりと濡れ、
息が詰まるほど暑くなっていた。
――アイスヴェルランドを抜けた証だ。
スノーマンは、思わず叫ぶ。
「……あつい!!」
「なんで、こんなにあついんだ!?」
「アイスヴェルは……
涼しくて、気持ちのいい場所なのに……」
「まさか……
アイスヴェルの外は、
こんなにも灼熱なのか……!?」
だが。
それも、また違う。
外が暑いのではない。
アイスベアの着ぐるみが、
異常に暑いだけだ。
しかしスノーマンは、
そうは理解しなかった。
(……なるほど)
(アイスヴェルの外は、
とても過酷な環境なんだな……)




