6話 すでに動き出す救い
極寒の雪原。
吹き荒れる風の中、ひとつの小さな家がぽつりと佇んでいる。
その中で――
ひとりの男が、静かに立ち上がった。
背を向けたまま、外を見つめ、
ぽつりと呟く。
「……迷宮、か」
少しだけ、間を置いて。
「ちょっと……遠いんだよな……」
ため息混じりに、肩をすくめる。
「まぁ……
放っとくのも、かわいそうだし」
そして、あまりにも軽い調子で。
「ちょっとだけ、行くか」
スノーマンと呼ばれる男は、
すでに立ち上がり、歩き出そうとしていた。
――なぜ彼が、その情報を知っているのか。
それを、誰も知らない。
だが、
スノーマンはすでに知っていた。
それは、
ルナという一人の女性が
この地に足を踏み入れた、その瞬間。
彼はもう、理解していたのだ。
だからこそ――
ルナとヴェルが玉座の間で会談している頃、
スノーマンはすでに
アイスヴェルランドを後にしていた。
この事実を、
ヴェルも、ルナも、
まだ知らない。
だが、確実に。
過度な救いは、すでに動き出している。
◆
外に出ようとして、
スノーマンはふと立ち止まった。
「……あ」
手にした紙袋を見下ろす。
「これ……いらないか」
「さすがに、パンツ一丁は……
ちょっと寒いし」
少し考え、
独り言のように呟く。
「誰かに見られたら……
さすがに恥ずかしいよな……」
そして、思い出したように。
「……仕方ない」
「数日前に、とらえた……
アイスベアの着ぐるみで行くか」
そう言って、
迷いなくそれを身に纏う。
白く巨大な
氷雪の魔獣――
アイスベアの姿。
そして、そのまま雪原へと歩き出した。
だが、
スノーマンは理解していなかった。
アイスベアという存在の、
“災害的な知名度”を。
アイスヴェルランドでは――
確かに危険ではあるが、
決して珍しい魔物ではない。
日常の延長線上に、
当たり前に存在する脅威。
だが。
他国では違う。
アイスベアは、
一夜で村を消し、
都市を凍らせ、
国家を傾けた――
災害級魔物として、
あまりにも名が知られすぎている存在だった。
スノーマンに訪れる困難は、
迷宮でも、
魔物でも、
災害でもない。
まさかの――
その“服装選び”であることを。
彼は、まだ知らない。




