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『世界最強――平和を守りすぎた男』  作者: くりょ


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30話 ルナの考察

ガルバスの玉座には、かつてないほど疲弊した男の姿があった。


王――ガルシアである。

その背は深く沈み、玉座に身を預ける様子は、まるで長い戦を終えた老将のようだった。

「……陛下」


傍らに立つバナードが、静かに声をかける。

「随分と……お疲れのご様子で」

「本当にだ!」


ガルシアは突然、声を張り上げた。

「なんとおお騒がせなことか! 国を救ってくれたことには、感謝の言葉しか出ぬ!!

だがな……だが!!」


拳が、重く机を叩いた。

「私は……何か、とてつもなく大きな“歴史”を作ってしまった気がしてならんのだ」

バナードは視線を伏せ、黙して聞く。

「わかるか?

国を捨て……王であることを捨て……」


ガルシアの声は低く、苦い。

「ほんの数日だが、この国は確かに“亡国”となった。

しかも、その事実を世界中に知らしめてしまった」

沈黙。

「そして、何よりも問題なのは――」

再び机が鳴る。

「戦いが、一度も起きていないということだ!!」


だが、ガルシアは続けた。

「……とはいえ、損害ばかりではない」

迷宮の魔物――鑑定が終わり、その価値が明らかになった。

クロベル。

ジェスター。

ウロボス。

タシャベルリア。

ドラグニ。

フェニクス。

スカルディア。

正体不明の魔物、牛魔、ドクキコ、コンドリア――。

その名が並ぶだけで、場の空気が重くなる。

いずれも“災害認定”を受ける魔物たち。

「ええぃ!! もうよい!!」


ガルシアは手を振る。

「クロベルとフェニクスだけでも、とてつもない財だ。

国民に還元できるものは、すべて還元せよ!」

そして、乾いた笑いを漏らす。

「ははははは!

しばらくは……税も免除だ!」

――王は、完全に壊れていた。

そこへ、足音が響く。

「お父様!!」

ルナである。


ガルシアは彼女を見るなり、ぷいと顔を背けた。

「……」

「ねぇ! お父様! 聞こえているでしょう!?」

返事はない。

あの手紙の内容を思い出し、気まずさが勝っていた。

「……ああ。聞こえているとも」

「ルナ、しばらくは休むがよい」

「だから!!」


ルナは一歩踏み出す。

「スノーマン様を探すべきです!!

この国の恩人です! 直接お礼を申し上げるべきです!!」


ガルシアの顔が、みるみる赤くなる。

「何を言っている!!

恩恵は確かに大きい!!

だが、正体がわかっていれば……動くと知っていれば、こんな混乱は起きなかったではないか!!」

「ルナ王女殿下」


バナードが、静かに割って入る。

「お気持ちは理解できます。

ですが、アイスヴェルの国王ですら、その正体は不明。

探すにしても、あまりに手掛かりがありません」

「それに……」

一拍置き、続ける。

「スノーマン本人が、それを望んでいるとは思えません」


「そんなことありません!!」


ルナは強く言い切った。


「これだけの功績を、何の礼もなく終わらせるなんて国の恥です!!

私だけでも、必ずお会いします!」

「礼は、アイスヴェルにする」

ガルシアは低く言う。

「……あの地は過酷だ。何度も訪れる場所ではない」

「それは、ヴェル陛下も望まれていません!」


ルナは一歩も引かない。

「正体を知らなければ、また今回のような混乱が起きます!

それに……」


視線が鋭くなる。


「私が、どれほど辛かったか。

あの手紙を、ここで読み上げてもよろしいのですよ?」

「や、やめろ!!」

ガルシアは慌てて叫んだ。

「わかった!! わかったから、それだけはやめなさい!!」


ルナは深く息を吸い、告げる。


「……目星は、ついています」

「なに……?」

「スノーマン様――いえ、その手がかりとなる人物です」


驚くガルシア。

「それは真か!? 一体どこだ!?」


ルナは静かに語り始めた。

「アイスヴェルへ避難した人々の話です。

とてつもなく美味しい肉を食べた、と」

「そして、それを卸していた青年がいた。

名は――ルイ」

「私の直感が告げています。

その肉は、私たちの知らない魔物のもの。

そして、それを狩ったのがスノーマン様だと」

「……ルイ」


ガルシアは眉をひそめる。

「聞いたことがない名だ。

だが、それならアイスヴェルの者たちも気づくのではないか?」


ルナは首を振った。

「気づけません。

あの地では、魔物の肉を食べることが“日常”なのです」

「異常に気づけないほど、平和に慣れすぎている。

それが……ルイという存在を隠してきたのです!」


ガルシアは、深く息を吐いた。

「……よい。

調べることは許可する」

だが、声を低め、強く釘を刺す。

「ただし、この話はこの場限りだ。

外で口にするな。

アイスヴェルでも、決してだ」

「もし……ルイがスノーマンであり、


それが彼に害をなせば……被害は計り知れん」

「はい……もちろんです!」


ルナは即座に答えた。

「では、行ってまいります!」

その瞳には、確信が宿っていた。

この推測は、やがて真実へと至る――

彼女は、そう信じて疑わなかった。

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