3話 モンスターホール
「……ところで」
王ヴェルは、ふと話題を戻すように口を開いた。
「本題から少し外れてしまったが……
そなたらが言う“訪れる厄災”とは、
すでに正体が分かっているのか?」
その問いに、
ルナははっとしたように背筋を正し、深く頭を下げた。
「申し訳ありません。
……はい。厄災の正体は、判明しております」
「ほう」
王は短く相槌を打つ。
ルナは、震えを抑えながら続けた。
「それは――
モンスターホール」
騎士たちの間に、ざわめきが走る。
「別名、
災害級魔物封印迷宮」
ルナの声は、次第に重さを帯びていく。
「かつて無数の魔物を封じ込めるために築かれた、
リリアルの迷宮が……
今、崩壊の兆しを見せています」
沈黙。
「もし……
もし、その迷宮が完全に崩壊した場合……」
ルナは言葉を詰まらせ、
それでも絞り出す。
「内部に封じられている魔物たちは、
一斉に外へ溢れ出します。
それも……
災害級の存在ばかりが、です」
ヴェルは腕を組み、
低く唸った。
「ふむ……
それは、他人事ではないな」
一拍置き、
淡々と続ける。
「だが……
この地にも、数多の災害級魔物は生息している」
そう言って、
王は顎で窓を示した。
「――あそこを、見てみるといい」
ルナは恐る恐る、
窓辺へと歩み寄る。
外は吹雪。
だが、城のすぐ外に――
**異様な“それ”**は、あまりにもはっきりと存在していた。
巨大な魔物の首。
胴体はない。
切断面は、凍りつき、
極寒によって“保存”されている。
ルナは、息を呑み、
声を失った。
「……こ……こ、これは……」
喉が震え、
言葉が続かない。
「まさか……
白竜の……!?」
ヴェルは、どこか愉快そうに笑った。
「ああ。
半年前だ」
軽い調子で続ける。
「首と胴体が、きれいに分けられてな。
翌朝には、こうして置かれていた」
ルナの視界が、揺れた。
「……ま……まさか……
これも……スノーマン様の……?」
ヴェルは肩をすくめる。
「意図は分からぬ。
だが、白竜の部位は非常に高価でな」
「それらを売却し、
国の財政に回している」
さらりと、
とんでもないことを言う。
「金額があまりにも大きすぎてな。
この資金だけで、
向こう数十年は経済に困ることもないだろう」
そして、笑みを浮かべた。
「おかげで、
この国は――税金なしでやっていけている」
冗談めかして、
ヴェルは言った。
「どうだ?
悪くない国だろう?」
その場にいた誰も、
笑うことはできなかった。
ルナも、
彼女の騎士たちも――
震えが、止まらなかった。
白竜。
伝説に名を刻む災害級魔物。
それを、
“夜のうちに”、
“誰にも見られず”、
“首と胴を分けて置いていく”。
そんな存在が、
この国にはいる。
ならば――
崩壊寸前の迷宮。
溢れ出そうとする災害級魔物たち。
そのすべてを、
殲滅できないはずがない。
確信にも似た思いが、
ルナの胸に宿った。
――スノーマンなら。
――あの存在なら。
必ず。
この厄災すら、
“なかったこと”にしてしまうのではないか、と。




