25話 魔族の男
――リリアルが、
ついに解放された。
その報せを聞いた瞬間、
一人の男は、抑えきれぬ歓喜に口元を歪めた。
その名は、ディーン。
魔族と呼ばれる存在であり、
数多の魔族たちを束ねる上位の血を引く男だった。
彼の瞳には、
あまりにも露骨な喜悦が浮かんでいる。
「……くく」
喉の奥から、嗤いが漏れる。
ディーンにとって、リリアルは特別だった。
仲間でも、同胞でもない。
一方的に恋慕するに足る、唯一の異性。
それだけであり、
それ以上でも、それ以下でもなかった。
彼は、ずっと考えていた。
もし――
もし、自身がリリアルと子をなしたなら。
その子は、疑いようもなく、
世界を統べる“絶対の覇者”となるだろう、と。
リリアルは特別だった。
誇り高く、
他者に媚びず、
孤高を貫き、
そして何よりも――
強くなろうとする意思を捨てなかった。
魔族ですら羨むほどの、
漆黒に染まった美しい角。
魔物と呼ぶには、あまりにも整いすぎた容姿。
鋭く、冷静で、理性的な知性。
どれを取っても、
すでに魔物の域を越えていた。
「……魔族として迎え入れるべき存在だった」
ディーンは、そう確信していた。
だが――
彼女は封じられた。
あまりにも強すぎたがゆえに。
人々に恐れられ、
そして――彼女だけでなく、
数多の魔物たちと共に。
一人の“大賢者”によって、
迷宮の奥底へと、閉じ込められたのだ。
その事実を知ったとき、
ディーンは激昂した。
「……ふざけるな!!」
拳を叩きつけ、
怒りを吐き出す。
「リリアルは……私のものになるはずだった……!!」
魔族たちは、何度も迷宮へ向かった。
だが、中へ入ることはできなかった。
結界は堅牢で、
理不尽なほど強固だった。
それでも、ディーンは諦めなかった。
少しずつ、
封印の性質を調べ上げ、
そして――ひとつの答えに辿り着く。
迷宮は、
外からの力を吸収すればするほど、強固になる。
だが同時に――
内部に閉じ込めた存在を、異常な速度で成長させる。
「……そうだ」
ディーンは、嗤った。
「リリアルなら……」 「彼女の成長力なら……」
「内側から、迷宮ごと……封印を破れる」
彼は、確信していた。
リリアルという存在の異常な成長性を、
誰よりも理解していたからだ。
だからこそ、ディーンは行動した。
数多の魔物を狩り、
その魔力を迷宮へと注ぎ込む。
注ぎ込み、
注ぎ込み、
注ぎ込み続けた。
迷宮という“器”は、
許容量を超えた魔力を抱え込み、
内側から膨れ上がっていく。
――いずれ、限界を迎える。
そして、その瞬間。
「……ふふ」
ディーンは、指先を舐める。
「解放されたら……すぐに迎えに行ってやる」
男の名は、ディーン。
歪みきった欲望を抱えた、
魔族だった。
「くくく……」 「ははははは!!」
笑い声が、洞窟に響く。
「リリアル……ついに、出てきたのだな!!」 「待っていろ……」
「おまえは、私のものだ!!」
興奮に身を任せ、
さらに声を上げる。
「ふふ……」 「ははは……!」
「あの、立派な角を……」 「なめ回すのが……今から楽しみで仕方ない……」
――ディーンは、変態だった。
だが、彼は知らない。
その角が、
魔族にとって最も美しく、
最も尊いとされるその象徴が――
すでに。
折られてしまったことを。、




