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『世界最強――平和を守りすぎた男』  作者: くりょ


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24話 勝手に動き出す忠誠の塊

その頃、ルナは――

関所の一角で、静かに涙を流していた。


自分でも、なぜこんなにも胸が痛むのか、

はっきりとした言葉にはできない。

だが、心の奥では理解していた。


ヴェンが動いた理由。

そして、それを招いたのが、

ほかでもない自分であるということを。

「……わたしの、せいで……」

唇が震える。

「ヴェンが……行ってしまった……」 「わたしが……戻るなんて言ったから……」

言葉にすればするほど、


罪悪感は形を持ち、胸を締め付ける。

そのとき、そっと声がかけられた。

「それは違います、ルナ様」

振り返ると、そこに立っていたのは騎士の一人、ルドーだった。


彼は膝を折ることなく、

しかし最大限の敬意を込めて、静かに言葉を続ける。

「ヴェンは、ルナ様のため“だけ”に動いたわけではありません」


ルナの目が、わずかに見開かれる。

「ヴェンは……我ら国民全員のため」 「そして、陛下のために動いたのです」


ルドーの声は穏やかだったが、

そこには揺るぎない確信があった。

「彼の行動には、すべての意味が重なっていました」 「それこそが――忠義の真髄です」

一瞬、言葉を切り、


ルドーは自嘲気味に微笑んだ。

「私は……感動しました」 「同時に、悔しくも思いました」

拳を握る。

「忠義なら、負けないと思っていました」 「忠誠なら、誰にも負けないと……」

だが、その手は、微かに震えていた。

「……ですが、見てください」 「私は、心だけで……」

視線を落とす。

「体が……本能が……すでに、負けているのです」


その震える手を、

ルナはそっと両手で包み込んだ。

「そんなこと……ありません」

か細い声だったが、

そこには確かな想いが込められていた。

「ルドー……あなたも、とても立派な騎士です」 「あなたのおかげで……わたしも……」

言葉が詰まる。

「……本当に、ありがとう」

ルドーは一瞬だけ目を伏せ、

深く、深く頭を下げた。

「ルナ様」

そして、穏やかに言う。

「我々は……待ちましょう」

「ヴェンが……」 「陛下が……」


一つひとつ、言葉を選ぶように。


「そして――スノーマン様が、すでに動いている可能性を」 「信じて、待つこと」

「それが、いま私たちにできる、最大の行動です」

そう言い残し、

ルドーは静かにその場を離れていった。

「……ルドー……」

ルナは名を呼ぶが、


彼は振り返らない。

その行動の意味を、

このときのルナは、まだ理解していなかった。

ルドーもまた、騎士だった。

そして――忠誠の塊だった。

彼は、ヴェンに嫉妬していた。

それは醜い感情ではない。

忠誠の深さゆえの、純粋な焦がれ。

「……私も、示さねばならない」


それが、

自分にできる最期の忠誠だと理解し、

彼は歩き出したのだ。


ルドーが選んだ道は、

ヴェンと同じではない。

彼の覚悟は、ひとつ。

もし、ヴェンに何かが起きていたなら――

最悪の想定を確認したなら――


その瞬間、すぐに引き返し、

ルナを抱えてでもアイスヴェルへ連れて行く。

たとえ、憎まれようとも。

「ヴェン……」 「あなたの覚悟を……忠誠を……」

「私が、必ず受け継ぎましょう」

こうして、


次々と動き出す忠誠の塊たちは、

自らの選択がどれほど“最適解”へ近づいていたのかを、

まだ知る由もなかった。

そして、場面は切り替わる。

迷宮を抜け、

信じられない速度で走るヴェンの姿。

「……はぁ……はぁ……」

息が荒い。

「……もう、終わっているんだ」 「終わっている……!」

必死に、何度も言い聞かせる。

「我々の……陛下の国は……」 「まだ、終わっていない!!」


ヴェンは、完全に理解していた。

迷宮は、すでに消滅している。

そして――それを知らぬ我々が、

致命的な判断を下そうとしているということを。

「……間に合え……」

汗と雪を振り払いながら、

彼は走る。

「この報告が……すべてを変える!!」

確信があった。

だからこそ、一秒が惜しい。

だが――


その“全力”こそが、

王であるカイネルたちに

最大級の警戒を抱かせてしまうことを。


ヴェンは、まだ気づいていなかった。

いつもの冷静な彼なら、


必ず察していたはずの“違和感”。

だが――

人は、焦りすぎると、

あまりにも単純な答えを、見落としてしまう。

ヴェンは、まさにその渦中にあった



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