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『世界最強――平和を守りすぎた男』  作者: くりょ


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15話 迷宮消滅

迷宮は、

しばらくのあいだ――

大きく、深く、揺れ続けていた。


理由を問う必要などない。

リリアルは、血の涙を流す。

迷宮の内部で、共に力を磨き、

互いを意識しながら生きてきた存在たち。

仲間と呼ぶには歪で、だが確かに“同族”だった


者たちの気配が、

ひとつ、またひとつと――

確実に、消えていく。


彼らは皆、

抗うために、

生き延びるために、

持てる力のすべてを解き放った。


それでも。

あまりにも、

あっけなく。


広大な迷宮のどこにいようとも、

その事実は、

ひしひしと伝わってくる。


そして――

遠くから、足音が聞こえた。

近づいてくる。


あの存在が。

先ほどの化物――


否。


化物の皮を被った、人間。

着用していたアイスベアの皮は、


激しく損傷し、

もはや頭部を残すのみ。

首から下は、

ほとんどが生身の人の身体だった。

アイスベアの頭を被った、

異形の人間。


リリアルは、その姿を見て悟る。

――傷が、ない。

これほどの殺戮を行い、

これほどの激しい戦いを経て。


その身体には、

かすり傷ひとつ、存在しない。

理解してしまう。

彼が纏っていた装備――

アイスベアの皮は、

身を守るための防具ではない。

自分たちに見せつけるための、


威圧。


そう思った。

だが、それも誤りだった。


実際には、

彼はただ――

素性を隠すために、それを被っていただけなのだ。


スノーマンは、

リリアルを見て言った。


「ちゃんと、ここで待っていたんだな」

「よし」

「リリアル、ここから離れるぞ」


彼は問いかける。


「……おまえ、飛べるよな?」


リリアルは、

小さく、何度も、

首を縦に振る。


その瞬間、

アイスベアの頭の奥で――

スノーマンが、確かに笑った。


それを感じ取ったリリアルの背筋に、

氷のような寒気が走る。


「よし、リリアル」

「俺を乗せて、飛べ」

「アイスヴェルに帰る」

「そしたら、おまえは――

どこか静かな場所で、

おとなしく暮らすんだ」


そして、

念を押すように言う。


「いいか?」

「人に見つかるな。

人の前には、絶対に出てくるな」

「……誓えるか?」


リリアルは、

その言葉を――

まったく別の意味で受け取った。


この存在は、

自分を助けようとしているのだと。

人前に出るな、という言葉も、

身を案じての忠告なのだと。


人は、

あまりにも強い。

だから、

弱者である自分は隠れて生きろ――

そう告げられているのだと。


強者の余裕。


そう、勘違いした。


リリアルは、

深く、深く、頷いた。

――だが。


真実は、

あまりにも無情だった。

スノーマンにとって、

リリアルに対する感情など、

最初から存在しない。

彼が彼女を生かした理由は、

極めて単純だ。


・人の言葉を理解できる

・空を飛べる


つまり――

早く、家に帰れる。

損傷したアイスベアの皮の代わりを探す必要もない。


素性を隠したまま、移動できる。

ただ、それだけ。

冷酷ですらある合理的判断。


――だが。


彼は、優しい。

そこまで利用したのなら、

生かしてやろうという情けが、

「人前に出るな」という条件だった。


こうして、

迷宮攻略。


否。


迷宮消滅は、達成された。

スノーマンを抱え、


空を飛ぶリリアル。

彼女は、

ふと、

スノーマンの肌に触れて――理解する。


冷たい。


あまりにも。

血が通っていないのではないかと

錯覚するほどに、


その身体は、

凍りついていた。

つい先ほどまでの激闘が、彼にとっては

運動にすらなっていなかったことを。


リリアルは、

改めて――

言いようのない恐怖に、

身を震わせるのだった。




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