13話 焦燥
迷宮内部。
スノーマンは、
一匹の魔物の前に立っていた。
その魔物は、
立ちはだかるというより――
解放の時を、静かに待っていた。
全神経を、
迷宮の“外”へ向け、
今にも駆け出そうとしていた、その瞬間。
目の前に現れた。
謎の魔物――
否。
魔物の皮を被った、正体不明の存在。
魔物は呆然と、
言葉を失ったまま、
スノーマンを見つめる。
スノーマンは、静かに言った。
「……おまえか」
「世界を、
混乱に貶めようとしている存在は」
――もっとも。
すでに混乱を招いているのが
自分自身であることを、
スノーマンは露ほども思っていない。
魔物は理解した。
目の前にいるのは、
同じ“魔”を司る存在ではない。
これは――
この迷宮に、自分たちを封じ込めた
憎き“人”そのものだと。
魔物は、
一気に魔力を解放した。
空間が軋み、
圧倒的な殺意が満ちる。
そして、
凄まじい速度で――
強烈なブレスが放たれる。
直撃。
誰が見ても、
即死。
そう判断する一撃。
だが――
横たわり、命を絶ったのは。
スノーマンではなかった。
ブレスを放ったはずの
強力な魔物の方が、
静かに地へ沈むように倒れていた。
スノーマンの手には、
特大の心臓が握られている。
彼は、それを――
躊躇なく、握り潰した。
「……さて」
「次だ」
戦いの余韻に浸ることもなく、
スノーマンは歩みを進める。
その巨大な魔物の名は――
クロベル。
厄災に名を連ねるに、
十分すぎる存在だった。
だが――
その名が知られることは、ない。
誰にも気づかれぬまま、
この世界から消えた。
そうしてスノーマンは、
次々と魔物に遭遇する。
どれも
固有名を持つユニーク個体。
だが――
次々に、仕留められていく。
スノーマンは、ただ一言。
「……急がないと」
「朝に、間に合わない……!!」
彼にとって、
これらの強力な魔物への感想はない。
恐怖も、興奮も、達成感もない。
あるのは――
早く帰らなければならない、という焦燥だけ。
あまりにも、
この場所と、
この行為に似つかわしくない思考を胸に。
必死の形相で、
迷宮を攻略――否。
破壊し続けていくのだった。




