12話 ファルコンの覚悟
冒険者たちは、脱兎のごとく走っていた。
ただひたすらに、王都を目指して。
肺が焼ける。
脚が悲鳴を上げる。
それでも、止まらない。
先頭を走るリーダー――ジンが、振り返りざまに叫ぶ。
「重たいものは全部だ!!
その辺に投げ捨てろ!!」
「とにかく……っ、
今すぐだ!!
王都を……避難させなきゃならねぇ!!」
その声に、後方から叫びが返る。
「ジン!!
そんなこと言ったってよ!!」
息を切らしながら、男が叫ぶ。
「俺たちですら……
戦いにすらならねぇ相手だぞ!!」
「報告したら……っ、
俺たちも……避難するのか……!?」
ジンは、走りながら笑った。
それは、いつもの軽い笑みではない。
覚悟を決めた者だけが浮かべる笑みだった。
「俺たちはな……」
息を吸い、
そして、はっきりと言い切る。
「皆が逃げるための時間稼ぎを、全力でやる」
「――ファルコンの名にかけてだ」
その名を聞いた瞬間、
仲間たちは理解した。
ジンが“ファルコン”の名を口にする時。
それは――
命を賭ける覚悟を決めた時だ。
彼は、自分たちが犠牲になることを前提にしている。
だが、それは戦う覚悟ではない。
抗うことすらできない厄災に対し、
ほんのわずかな時間でも、人々に与えるための
選択。
それだけだ。
仲間たちは無言で頷き、
次々と荷物を投げ捨てる。
高級な剣。
希少な防具。
命を守るはずだった装備。
すべてが、道に散らばっていく。
体を軽くし、一秒でも早く王都へ向かうため。
防衛策を施すために――
時間が、あまりにも惜しい。
戦うための装備が、
ほとんど意味をなさないことは、
先ほど嫌というほど理解させられた。
あのアイスベアだけではない。
それすらも越えた厄災が――
今まさに、解き放たれようとしている。
誰も振り返らない。
誰も未練を見せない。
それぞれの覚悟が、
その一歩一歩に、重くのしかかる。
道には、
あまりにも高価な装備が散乱していた。
彼らの行動は、決して間違ってはいない。
だが――
彼らはまだ理解していなかった。
この必死の行動が、
すべて無駄になる可能性を。
なぜなら。
この地には、
すでに“来てしまっている”。
伝説の男――
スノーマンが。
それを知る者は、
今この瞬間、誰ひとりとしていなかった。




