11話 破壊する善意
「さてと……」
スノーマンは、軽く肩を回した。
「さっさと終わらせて、帰らないとな……」
彼の焦りは、
決して“ミッションの成否”ではない。
誰も外に出歩かない時間帯のうちに帰宅し、
日中は、何事もなかったかのように
日常生活へ溶け込むこと。
それが、何よりも重要だった。
――なぜ、そこまで素性を隠したがるのか。
だが、その理由を
彼自身が深く言語化することはない。
スノーマンは、
軽い足取りで迷宮の探索を始めた。
その瞬間、
壁越しに伝わってくる。
重く、力強い振動。
(……いるな)
(しかも……
なんか、元気なのが)
この迷宮は、
迷路というより――
ひとつひとつの空間が隔絶されるように広がっている構造だった。
「……めんどくさいな」
そう呟き、
スノーマンは手当たり次第に壁を殴った。
ボキッ
乾いた音が響く。
それは、
スノーマンの腕が折れた音ではない。
着ぐるみの――
手首部分が、ひしゃげた音だ。
「ぁあっ!!」
「大事な着ぐるみが……!」
「こんなに、もろいなんて……!」
――否。
アイスベアの皮膚が、
ましてや腕が、
脆いはずがない。
ただ、
迷宮の壁が異常なほど硬く。
そして――
スノーマンの腕力が、
異常なほど強すぎただけだ。
不遇な評価を受けるのは、
着ぐるみのほうだった。
スノーマンは、
壊れた腕部分を掴み――
そのまま、引きちぎった。
着ぐるみの下から、
生身の腕が露わになる。
「……よし」
もう一度、
拳を握りしめる。
最強の壁と、最強の拳。
一瞬だけ、
世界が静止したかのように見えた。
次の瞬間。
壁は、
耐えた――ように見えて。
跡形もなく、吹き飛んだ。
轟音。
粉塵。
封印の魔力が、悲鳴のように散る。
こうしてスノーマンは、
迷宮の封印を――
腕力だけで、次々と破壊していく。
彼にとっては、
ただのショートカットだ。
だがそれは、
迷宮という“封印装置”を
根こそぎ破壊する行為。
人類にとっては、
最大のリスク。
そして――
最大の裏切りと
受け取られてもおかしくない行為だった。
「……よし」
「まず、一匹見つけた」
気配を捉え、
スノーマンは軽い足取りで――
いや、とんでもない速度で
その元へと駆け出していく。
何も疑わず。
何も知らず。




