10話 スノーマンVS謎の後ろ
スノーマンは、迷宮の近くまで辿り着いていた。
その瞬間、
彼の感覚に――
無数の人の気配が引っかかる。
「……多いな」
だが、彼は止まらない。
「くそ……
アイスヴェルなら、この時間、誰も外にいないのに……」
「なんで……
夜中に、こんなに人がいるんだよ……」
苛立ち混じりに吐き捨てる。
「アイスヴェルじゃ、
夜の外出は命を落とすって有名だぞ……」
「……そんなに、死にたいのか?」
だが――
スノーマンは理解していなかった。
アイスヴェルの夜は、
極寒のピークであるがゆえに、
外出が不要なだけだということを。
他国では、
この時間でも人が活動しているという
当たり前の事実を。
彼の計画は、単純だった。
夜のうちにすべて終わらせ、
朝には帰宅して休む。
アイスヴェルでは完璧な計画。
だが、他国では――
それは最悪の選択だった。
それでも、
スノーマンに迷いはない。
「多少、目撃されても……
アイスベアだと思われるだけだろ」
「大丈夫さ。
俺の正体なんて、誰にも分かるはずがない」
――根拠のない自信。
そうして彼は、
次々と人々の視界に入っていく。
だが、
そこに集まっていた者たちは
ただの町人ではなかった。
迷宮を監視し、
異変があれば即座に対応するため待機していた
冒険者たち。
しかも――
全員が、ベテラン。
階級も高く、
修羅場をくぐり抜けてきた強者ばかり。
彼らは即座に気づいた。
「……な、な……」
「アイスベアが……
迷宮に向かっている……!!」
「やばいぞ!!
全員、警戒しろ!!」
一瞬で、陣形が組まれる。
「いいか!!
来るぞ!!」
矢が放たれ、
魔法が詠唱される。
「ヘルフレイム!!」
夜空を覆うほどの
無数の矢と魔法。
その光景に、
スノーマンは思わず後ろを振り返った。
「……なんだ!?」
「後ろに……
なにか、やばいのがいるのか!?」
だが、
そこには――何もいない。
それでも、
彼らが必死に戦っているのは間違いない。
(……そうか)
(後ろに、
正体不明の危険な魔物がいるんだな……)
スノーマンは、
強く念じる。
――任せろ。
そして、
後方へ向かって
巨大な氷の魔法を解き放った。
アイスバースト。
もちろん、
そこに敵はいない。
だが――
後方一帯は、
一瞬で氷獄と化した。
凍てつく衝撃波。
圧倒的な魔力の余波。
冒険者たちの矢は、
空中で勢いを失い、
粉々に砕け散る。
魔法もまた、
押し潰されるように霧散した。
あまりの威力に、
冒険者たちは言葉を失う。
「……そ……」
「そ、そんな……」
混乱の中、
誰かが震える声で呟いた。
「……まさか……
威嚇……なのか……?」
――盛大な勘違いだった。
スノーマンは、
矢も魔法も飛んでこないことを確認し、
「……よし」
「どうやら、
後ろにいた魔物は消えたみたいだな」
感覚を研ぎ澄ます。
生き物の反応は、どこにもない。
「……なら、行くか」
彼は速度を落とすことなく、
そのまま迷宮へと突っ込んだ。
正面からではない。
側面の壁を、
問答無用で破壊し――
そのまま、
迷宮の内部へ侵入する。
それを見た冒険者たちは、
青ざめる。
「……しまった……!!」
「あのアイスベア……
迷宮を……」
「いや……違う……!!」
「封印を壊すつもりだ!!」
「もう駄目だ!!
全員、撤退!!」
「すぐに……
戦闘準備を……!!」
冒険者たちは、
一目散に退却した。
――この場所でも。
とんでもない誤解と、
取り返しのつかない影響がすでに生まれていたことを。
スノーマンは、
まだ、理解していなかった。




