Ep.8 義理の付き合い①
あれだけ京坂さんとの義理デートのことを考え、寝れなかったとしても、不思議なことに朝食は良く喉を通ったし、学校に遅刻することもなかった。
なんだかわからないけど、不思議と全てがうまくいってる気がする......。
もしかして京坂さんとの付き合いも上手くいくんじゃないか......。
なんて根拠のない考えが、身体中を満たしている気がした。
が、そんな甘い考えは教室の扉をあけるた瞬間に、突風でかき消されたかのように霧散した。
「寺川、お前京坂さんと付き合ってるって本当なのか!?」
「どういうことだ! 寺川、説明してくれ!」
「あの話は本当だったのかよ!?」
「いつから付き合ってたんだ! くそ、抜け駆けしやがって!」
「こんなやつに、京坂さんがっ......! うううっ〜、羨ましすぎる!!」
−−−何が起こってる......!?
360度ぐるりと、血眼になったクラスメイトが俺を囲む。
逃げれると思うなよと、言わんばかりの威圧と雰囲気に、俺は戦慄するかしなかった......。
「わ、悪いが、そこを通してくれると助かる......。荷物を置きたい......」
「はぁあ!? 俺たちが納得するまでここは通すわけないだろ!」
な、何なんだこいつら......。
もしかしたら今日はいい日になるのでは、なんて思っていたが、まさか登校した瞬間に訳のわからんメンツに囲まれるとは。
ていうか、なぜ俺と京坂さんが付き合うことがバレてる......?
裏校舎での会話を誰か盗み聞してたのか?
「貴様から妥当な説明がないのなら、コイツの首をっ......」
「おい、ちょっと待て! 早まるな! 物騒なこと言うなっ!」
「そこまでよ!」
「......! きょ、京坂さん!」
今にも襲いかかりそうな男子達をたった一言で一蹴したのは、少し苛立った表情をする京坂さんだった。
た、助かったのか......。
「京坂さん、寺川と付き合うなんて嘘ですよね......?」
「こんな冴えないやつの、どこを気に入って......」
「冴えないやつ? それ、本気で言ってるの?」
「い、いや、だって......」
「撤回しなさいっ!」
「うっ......ご、ごめん」
え、京坂さんすごい怒ってない?
なんだか......。
昨日、俺と喋ってた時とは違う怖さがある。......。
触れてはいけないものに触れてしまったような......。
俺の考えすぎか?
流石の男子たちも気圧されたのか、ゾロゾロと俺の周りからいなくなってくれた。
普段一人で生活している俺からすれば、急に多人数が詰め寄ってくるなんて、ただの地獄絵図でしかない......。
京坂さまさまだ。
「まったく......私が誰と付き合うかなんて、個人の自由でしょ......」
「あ、ありがとう京坂さん、なんかよくわからないけど、助かった......」
「別に......。ただあの人たちの発言が気に食わなかっただけよ。それに、これは私が招いた不注意のせいだから」
「不注意?」
「そう。私と寺川くんが付き合ってるってことを、陰で噂されるくらいなら最初から明るみにしようと思って、私から友達を介して、付き合ってるってことを拡散したんだけど......まさかここまでするなんて思ってなかったわ......本当にごめんなさい」
「ううん、俺は大丈夫......、むしろ助けてくれてありがとう」
「うん、まぁ......。コホン、とにかく! 今日からよろしくね、寺川くん」
「こ、こちらこそよろしくお願いします! その〜......不束者ですが、お手柔らかにお願いします......」
「ふふ、なによそれ」
......え、京坂さん今笑った?
ずっと怪訝な顔しか見てこなかった気がするけど、ていうか、笑った顔めちゃかわっ......
「なにジロジロ見てるの? キモ......」
「ご、ごごご、ごめんなさいっ!」
「一限目始まっちゃうから、さっさと準備した方がいいよ」
「うん......」
......。
京坂さん、すごい落ち着いてるな......。
やはり異性と付き合ったことなんて、数えきれないほどあるんだろうか。
うっ、やめよう。
考えれば考えるほど、俺との格差に胸が痛くなる。
そうだ......。
これは所詮、文化祭までの関係!
本当に付き合ってる訳でもなく、ただ京坂さんの頼み事を一時的に手伝ってるだけだ......。
ならば肩肘はらず、彼氏を演じた方が空回りしないでいいのかもしれない。
依然として周りからの視線はあるものの、仕方がない。
何せ相手は高嶺の花、クラスどころか学校中の人気者である京坂八ツ羽さん。
そんな人が、有象無象のパッとしない男と付き合ってるなんていえば、嫌味や視線の一つ、二つ、あって当然だ......。
俺だってそれを覚悟のうえで、彼女の願いを引き受けたのだ−−−。




