Ep.4 好きな人②
「失礼ながら京坂さん、京坂さんて、ホントに京坂八ツ羽さんであってます?」
「は? 何言ってるの? 寺川くんて、実は頭おかしい人? 私は京坂八ツ羽で、その他の何者でもないに決まってるじゃない」
「すごい自尊心だ......」
「なんか言った?」
「な、なんでもありませんっ!!」
−−−。
(う、うそ......私いま、寺川くんと話してる!?!?!?)
私−−−京坂八ツ羽は、同じクラスの冴えない男子、寺川晴秋くんに恋をしていた。
冴えない男とか言うと、本人に怒られそうだけど、もとい、私は彼のそう言ったところも好きだ。
川口くんや西尾くんは、彼のことを冗談混じりでいじったりしてるけど、滅相もない。
実は優しくて、誠実なんだってこと......私は知っている。
話せば長くなるけど、私は何回も彼に助けられてきた。
それなのに目の前にいる彼は、主人に怯える飼い犬の如く、私の様子に戦慄していた......。
−−−いやっ......あたりまえだっ!
さっきからちゃんと、話そうとしているのに、緊張しまくってロクな会話ができていないじゃないか!
御伽話に出てくる悪い姫みたいな口調になってばかりだ......。
し、しっかりしろ、京坂八ツ羽!
意中の相手と裏校舎で二人きり!
こんな展開、滅多にあるものではないぞ!
こ、こここ、告白するなら今しかないっ!!!
ゆけっ、京坂八ツ羽!
「じゃあ、担当直入に言うわね。文化祭の告白イベントまで、私と付き合いなさい!」
「...........................」
「なによ、ぼけーっとして。もしかして、私と付き合うことに不満でもあるの?」
「え、えーっと、俺の聞き間違いなのか......。京坂さんと付き合えるって......」
「聞き間違いじゃないわ、文化祭まででいいわ。私と付き合ってちょうだい」
「そ、それって......京坂さん、俺のこと......」
「は!? 調子に乗らないで! マジで誤解もいいところよ! なんでアンタと正式に付き合わなきゃいけないわけ? 義理よ!義理!」
あぁぁぁああああ〜〜っっっつつ!!
私のどあほ! あんぽんたんっ!
何が「義理」よっ!
ここで本音を伝えなかったら、いつ伝えるっていうのよっ!!
自分に言うのもなんだけど、ここまで寺川くんを連れ出しておいて、何もせず爪痕を残さないのはいやだ!
「デ、デスヨネ、ダイジョウブデス、モチロンシッテマスヨ、エエ」
ほら、寺川くん固まってるじゃない!
私の言い方があまりにもひどいから!
緊張すると口調が変わってしまうのは昔からだけど、こんなところで仇となるなんて......。
今すぐ布団にくるまりたい気分......。
「べ、べつに大丈夫......。京坂さんが、いいって言うなら......。だけど、なんでまた、俺に義理の付き合いを?」
「んぐっ.........」
思わず言い淀む。
あまり自分から説明したくないのだが......。
しなければ話が進まないし、寺川くんだって、こんな性悪女と理由もなく付き合いたくないことくらいわかる!
だって、寺川くんと付き合いたいし、一緒にいたいのに......っ!
はぁ.........。
私に告白できる勇気なんて最初からなかったのだ......。自分の無力さにがっかりしてしまう。
「この前、知り合いに告白されたのよ」
「え............っ」
「ちょ、大丈夫? 魂抜けたような顔してるけど」
「あ、え、えー......っと、うん、大丈夫、問題ない......」
「だけど私、恋愛とか興味ないから断りたいんだけど、向こうも向こうでしつこいから......。だったらいっそのこと、彼氏いるんでアピールしとけば、向こうも諦めてくれるでしょっていう話」
「あ、ああー......、なるほど。それで俺を?」
「ごめん、もちろんタダでとは言わない。お礼はさせてもらうわ」
「でも、俺んなんかより適任いるんじゃない?
例えば太一とか尾西とか......。アイツらと付き合った方が説得力ある気がするけど......」
「うぐっ.....」
い、言えない......。
寺川くんが好きで少しでも近づきたいから義理の付き合いをするなんて、口が裂けても言えない!
「俺、恋愛経験とか誰かと付き合ったこととか無いけど、大丈夫そうか?」
「え、それって.........」
それって、私がデートの相手、初めてってこと?
うそ......。
寺川くんが初めて付き合う人、わたしってこと?
やっ、やったー!!
「ふん、童貞てこと? ウケる」
「そ、そこまで言わなくてもいいだろ......」
「こほん。と、とにかく、明日から義理の恋人ってことで。わかってる? もう一度言っておくけど義理だからね? あと寺川くんは、彼氏っぽいことをするために色々調べておくこと」
「京坂さんは......?」
「私? 私なんて知り尽くしてるから問題ないわよ。一緒にしないで」
「ご、ごめん。わかった、とりあえず頑張ってみるけど、あんま期待はしないでくれ......。じゃあ、また......」
「ん、じゃあね」
こうして裏校舎でのやりとりは終えた。
というか.........。
ぜっっっっっったいに嫌われた!!
100%、1億%.........いや、1兆−−−。
義理で付き合うなんて言っておきながら、自分から幻想壊しに行ってるじゃん......。
うまく回らない口を抓り、涙目になりながらその場でかがみ込んでしまう。
「さ、さいあく.........。私のあほ、どじ、あんぽんたん......」
あんな口調で言われたら、例え本物の恋人だとしても傷つくし、嫌に決まってる。
最悪絶縁レベルじゃないのか......。
わ、私だって恋愛経験ゼロだから、詳しいことはわからないけれど。
「......今度ちゃんと謝ろう」
この口が、ちゃんと動いてくれればの話だけど。
最悪の幕開けだが、こうして私、京坂八ツ羽と寺川くんの、偽の恋人生活が始まった......。
先行き不安しかないよ......。
それでも、私が始めたことだ!
頑張って寺川くんの彼女を演じなければっ!




