Ep.2 Side晴秋 winter memory
俺が京坂さんと初めて会ったのが、2年前の冬。
「終わった......」
そう一人で呟いたのは、この先の未来に関してかはたまた、俺自身の不甲斐なさかはわからない。
−−−でもたしかに、これはまずい......。
ポケットに合ったはずの受験票が無くなっていた......。
これがなければ入館はおろか、1時間後に始まる入試すら受けれなくなる。
−−−はぁ、またこれか......。
今までに数多くの危機に瀕してはその度に、自分自身でなんとか乗り越えてきた。
修学旅行先でインフルエンザになったり、大金が入った財布を何回も落としてしまったり、友達と思っていた人に裏切られたり−−−いや、この話はやめよう。
もう終わったことだし、どれも乗り越えてきたことだ。
しかし今回は訳が違うと、第六感的な何かが言ってる気がする......。
バスの中で受験票を落としてしまったとすれば尚更、もう手遅れだ。バスは目の届かない遥か向こう。
あぁ、なんの困難もなく会場に入っていく生徒達が羨ましく思えてきた。
−−−この日のために勉強してきたのになぁ......。
なんの取り柄もない俺だが、責めて勉強くらいはできていたいと浅はかな思いでこの高校に挑戦しにきたが......。
くそ......。
悲しくも、目の前が滲んでいく感覚がした。
音も視界も遠く、遠く、遠く−−−。
「いてっ......」
「......?」
背中にかわいい衝撃がはしった。
こてん...みたいな。
何かがぶつかったようだ。
「あはは、ごめんなさい。ぼぉーっとしちゃってて。怪我、無いですか? ほんとにごめんなさい」
「い、いえ、大丈夫です......」
ボブヘアが良く似合う女の子がそこにいた。
この子も受験生だろうか。
「どうかされたんですか......? ていうか、泣いてます!? 泣いてますよね!? ごめんなさい、私がぶつかっちゃったから......?」
「え、あ、いや、これはえーっ......と、違くて......」
え、ウソだろ、俺泣いてるのか!?
まさか受験当日に見知らぬ女の子に泣き顔まで披露してしまうとは、一生の不覚すぎだろ......!
中々に恥ずかしいことをしてしまった気がして、顔が一気に火照った。
思い悩んでいたことがバレぬよう、努めて冷静に−−−。鎮まれ俺っ!
「気にしないでください。ちょっと色々あって.......。それよりあなたこそ、試験に遅れてしまいますよ」
努めて冷静に、冷静に......。
己の羞恥をはぐらかすように、目の前の彼女に言った。
「そ、そんなことより、何かあったのかだけ教えてください。じゃないと私、気になって試験に集中できないじゃないですか!」
「いや、あなたに関係ないでしょ......」
「関係なくないですよ。今日の敵は明日の共? そんなことわざありましたよね。そんな感じです。気にしないでください。私も試験に遅れるつもりはないので!」
なぜそんな元気なのだろうか。
俺とは正反対だ。
引き下がってくれるつもりはないらしく、素直に事情を告げた。
「いや、ホントに気にしないでください。俺の失態なので......」
「いえ、探しに行きましょう!」
「......はい?」
何を言ってるのかわからなかった。
探すって、まさか受験票を? 今から......!?
「だから、受験票を探しに行きましょう! バスの中で落とさなかった可能性もあります。だとしたら貴方が来た道のどこかに......!」
「い、いい加減にしてくださいっ!」
俺の一声に場が静まり返る。
ちらちらと周囲の視線が集まってる気がした。
しかしそんなもの、今ではどうでもいいくらい、俺は彼女の熱心さに腹がたっていた。
ていうか今あったばかりなのに、なぜそこまでしてこようとするのか......。
「なんでですか? なぜそんなに助けを拒むんですか......」
上目遣いで俺を観てくる。
少しかわいいと思ってしまったが、怯むな俺!
今はそんな場合ではない。
「もう遅いですよ。仮に家の周りに落ちてたとしてもここから歩いて30分ほどあります。往復では間に合いませんし−−−......」
「そうやって諦めるんですか」
「諦めるとか、そんなのでは......」
「諦めてるだけじゃないですか!」
「......っ!」
......。
あぁ、本当に情けない。
こうも簡単に、人柄を見透かされるとは......。
「ねぇ、名前は?」
ふと彼女が聞いてきた。
「寺川です、寺川晴秋」
「ふふっ」
笑われた!?
名前で笑われたの初めてなんだが!?
「名前なんて今どうでもよくないですか......」
「えー? だって名前わからないと受験票見つけても誰のものかわからないでしょ?」
確かにそれもそうか......。
では、せめてもの反撃として......。
「名前教えたんですから、あなたも教えてください」
我ながらしょぼい反撃だった。
「京坂、京坂八ツ羽よ。カッコいい名前でしょ?」
「それ、自分で言いますか? ふつう......」
「べ、べつにいいでしょ! さ、さぁ受験票、受験票!」
顔を赤くしてぷいっと、そっぽを向く京坂さん。
さっきからあざとい行動が多いきがするが、恐らく無意識なのだろう......。
これが京坂八ツ羽と俺が初めて話した日だった。




