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Ep.1 好きな人①

 俺−−−寺川晴秋(てらかわはるあき)には、ずっと好きな子がいる。


 ずっとなんて言うとストーカー紛いみたいな表現になってしまうが、高校の入学試験の時、彼女−−−京坂八ツ羽さんがいなければ俺は今、この学校にいなかっただろう......。


「まーた1人でボソボソ呟いてやんの」

「痛っって!」


 背中に衝撃が走った。


 思わず口から米粒が噴き出てしまった。

 俺のせいじゃない。

 というか、声に出てたのか......ハズ。


「人が飯食ってる時に背中を叩くな。せめて威力を弱めろ」

「友人に対しての愛の鞭的な?」

「そんな鞭はいらん。とりあえず百姓に謝れ」

「なむなむ」


 そんなくだらないやり取りをする中、目の前のスタイル抜群イケメン野郎の川口太一(かわぐちたいち)が適当に手を合わせている。


「ていうーか、教室の端っこで昼飯食うのいい加減やめた方がいいぜ? お前ビジュアルだけはいいんだし、もっとイケイケな雰囲気だしてこーや」

「余計なお世話だ。俺はこうやって海を眺めながら飯を食うことに生きがいを見出してる」

「とか言いながら友達いないだけだろ?」

「ぐっ......コイツ......」

「お、やっぱ当たりか?」

「さっさと陽キャグループの輪に帰りやがれ」


 シッシッと、太一を手で追い払い、俺は自分の世界に戻った。


 いや、自分で言うのも癪だが、確かに、俺に気楽に喋れるような友達はいなかった。

 太一に関しては誰に対してもあんな感じで、女子だろうが関係なく突っ込んでコミュニケーションをとっている。

 中学からの付き合いがあると言うだけで、陰キャ極まりない俺が、あいつを親友と呼ぶにはどうも気が引ける。


 恐らく住んでる世界が違うからだ。


「はぁ......これが生まれ持ったレッテルと才能の差なのか」


 教室の端では目がチカチカするような輝きを放つ5人の集団がワイワイ話している。

 その集団を仕切っているのが太一で......。

 というより、あの集団、顔面偏差値が高すぎる。俺にも少し分けろ。

 そんなくだらないことを思っていると......。


「やっぱいいよなぁー、京坂さん」

「マジ同感、ルックスも顔もマジかわなんだが」

「俺、今度の文化祭で京坂さんに告るわ」

「いや〜、高嶺の花すぎて告白する気にもなれんわ」


 と、あのキラキラ集団から、青春まっさかりな会話が聞こえてきた。


「晴秋はどうすんだ?」


 食べ終え、教室から出ようとした瞬間、まるで狙い澄ましたかのように太一が俺に話題を振ってきた。


「何が?」

「いや、文化祭だよ。文化祭の最後にあるだろ。毎年恒例の告白イベント」

と、太一の横にいる少し小柄な尾西がワクワクしながらノってきた。

「なんで俺がそれに出る前提で聞いてくるんだよ」

「まぁ、確かにウチのクラスから出場するやつは尾西て決まってるけど、一様晴秋の意見も聞かせてくれよ」


 太一は隣に立つ、同じくイケメンの尾西の頭にぽんっと手を置く。

 俺はそんな答えようの無い質問に嫌な顔をしながらも、目線は無意識のうちに、教室の前にいる3人ほどの女子グループの1人に向いていた。


 京坂八ツ羽さん......。


 黒髪のボブヘアが印象的で、クラス内−−−いや、学校中で絶大な人気を誇っている高嶺の花。

 だれが言い出したのかわからないが、彼女が歩いたとこには、花が咲き、人々は足を止めるなんてよく言ったものだ。


 清楚で可憐で、圧倒的人気者。

 それが京坂八ツ羽さん......。


 いや、関係の無い話だ......。


 たしかに、俺が彼女のことを気になっていることは事実だが、付き合うことはおろか、告白するなんてことも万に一つ無いだろう......。


 ていうか、今目合った?


 一瞬だったが、京坂さんがこっちを向いていたような......。

 いや、考えるだけで馬鹿馬鹿しい。時間の無駄だ。


「やっぱ京坂だよなぁ!」

「!?」


 俺の心の中を射抜いたような発言が太一から飛び出し、肩が跳ねる。


「な、晴秋もそう思うだろ?」


 太一が肩に手を回して同意を求めてくる。

 強引に同意を求めてきただけらしい......。

 ビビった......。


 暑苦しい。さっさと自由にさせてくれ。


「そ、そうだな......。いいんじゃないか、京坂さん」

 適当にいなす。

「ほらなぁ、万丈一致だろ? 晴秋がそう言ってるんだ! やっぱ尾西もそう思うだろ?」

「じゃあ決まりだな。高嶺の花だろうが、関係ない、僕は京坂さん一択だぁっ!!」

「お前、めんどくさいオタクみたいになってるぞ......」

 尾西の発言にゲラゲラと談笑に包まれ、全員の視線が逸れたところで、スッと輪から抜け出した。


「ぶはぁっ......」


 身体中に涼しい空気が当たる。

 やはり1人は最高だ。


「て、つくづく陰キャだな。俺......」

 

自己嫌悪に陥りながら、適当にジュースでも買いに行くかと思い、廊下に出たその瞬間......。


「あの、寺川くん......だよね?」


 幻聴だ。

 きっと疲れてるんだろう。


「ちょ、ちょっと......!なんで無視するのよっ!」

「痛っ......てぇぇええ!」


 背中に一発何かが弾けた感覚があった。

 さっきから俺の背中が可哀想なんだが......!?


「きょ、京坂さん......?」

「はぁ......。やっと聞こえたわね。寺川くん、少し聞きたいことがあるんだけど、裏校舎で話さない?」


 さっきまでイケメン集団の話題の中心にいたご本人様−−−京坂八ツ羽さんが、なぜか怒り気味で俺に話しかけてきた。

 

 ......ていうか怒ってる?

 容姿端麗から放たれる......これは殺気なのか?


 え、なに? こわ......俺なんかした?

 それともさっきの陽キャどもの会話が聞こえてたとか......?

 だとしても俺関係なくない?


「ごめん、俺今から用事あるんだけど......」


 ウソです。用事なんてありません。

 本当は京坂さんとも話をしたいんです。

 そりゃあ、意中の人と話せる機会なんて滅多にないから......。


 でも俺は根っからの陰キャコミュ症だからそんなことはできない......。


 そして何より、目の前の威圧的なオーラから離れたいのは本当なんです。


「ふーん......」


 俺に向けられたその一言でわかった。


 ああ、これは殺気だ......。


「すみません、着いて行かせてもらいます」


 女子たった一人の圧力にも負ける漢、これが寺川晴秋−−−。

 俺という存在だった。

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