Ep.10 義理の付き合い③
「−−−晴秋って、本当に京坂さんと付き合ってるの?」
真剣な表情、いや、こと尾西に関しては、もともと喜怒哀楽があまり顔に出ないこともあり、どう読み取ればいいのかわからないが、少なくとも、その台詞から俺を揶揄っているような雰囲気は感じられなかった。
謎の緊張感が漂う。
昼飯直前だというのに、胃のあたりが妙に冷えた。
「ま、まぁ......」
「へえー、流れてる噂は本当だったんだ」
京坂さんが意図的に流した、俺と付き合っているという噂は、大多数の人間に広まっているらしい......。
「それで、いつから付き合ってるの?」
「つい、この前......からかな」
「この前っていつ? 僕たちと文化祭のことについて話してた時はもう付き合ってたってこと?」
「え、えーっと......まぁ、そうだけど」
「なんで教えてくれなかったの?」
「な、何でって言われましても......」
「そうやって誤魔化すんだ。晴秋って、所詮は何でもかんでも誤魔化して、結局俺には関係ないとか思っちゃう人なんでしょ」
間髪入れずに捲し立ててくる尾西に、固まってしまう。
きゅ、急になんなんだこいつ......!
教室に入って、質問攻めにあった時は、どこか揶揄っているというか、柔らかい雰囲気がまだあったものの、尾西に関しては違う気がする......。
嫉妬というか、俺を突き落とすような−−−。
けど、どうして......。
いや、当たり前のように、俺は太一と尾西の和に入っているが、もっと違和感を持つべきなのは俺の方だ。
本来、教室の隅っこで1人を堪能している俺が、このようなイケメングループに属していてはいけない......。
だとすると−−−。
「尾西、お前、京坂さんのこと好きなのか?」
「ぶっ!!」
尾西は飲んでいた水を吹く。
その反応からするに、当たりか。
「だから何? 僕が誰を好きになろうと君には関係ないでしょ? 努力もしない君みたいな人に、意中の相手と付き合われてしまうこっちの気持ちも、少しは考えたら?」
「っ! お、俺だって−−−」
思わず立ち上がり、何かを言おうとしていたところでピタリと止まった......。
俺だって京坂さんのことは......率直に言って、好きだ。
でもその気持ちはどうだ。
もちろん、京坂さんに告白してきた学生など山のようにいるだろう。
その中には本気で振り向いてもらえるよう、努力した者もいるかもしれない......。
客観的に観たら、不審者がられるかもしれないような努力までして、恋を成就させようと必死になってた人だって何人もいるだろう......。
尾西もその1人なのだろう。
一方で俺はどうだ。
気持ちという見えない形だけは一人前で、その他のものは何一つ行なっていない。
あの時−−−裏校舎でたまたま京坂さんの方から、話しかけられたから今、仮にも付き合っているだけ。
運が良かっただけだ。
何一つ俺が行動したことなど無い。
尾西が物語の主人公だとしたら、俺は横から出てきた村人A。
そう考えれば、尾西がヤケになるのも当然のように思えた。
だから......。
「.........」
「そうやって、また何も言わないんだ。晴秋っていつもそうだよね」
自分の気持ちを貫こうとするものの、口が止まる。
本気で京坂さんのことが好きな相手に、俺から言える言葉などなかった......。
いやそれはただの言い訳だ。
俺という人間があまりにも情けなく、弱いから、本気で思いをぶつけることさえできないだけ......。
「ごめん、ちょっと言いすぎた。水とってくる......」
「......」
自分の情けなさに、食も進まない。
きっとこの状況を京坂さんに見られたら失望するだろうな......。
「ただいまぁーっと、尾西は?」
「太一......尾西なら水取りに行ったけど」
「ふーん、で、そのシケタ顔はなんだ? せっかくのカッコいい顔が台無しだぜ?」
「お前に言われてもな......」
「それもそうか!」
食堂で買ってきた塩ラーメンを置いて、隣で黙々と食べ始める太一。
俺の気持ちも知らず、美味しそうに食べやがる。
「んで、尾西になんか言われたんだろ」
「別に......?」
「隠さなくていいって、まぁ尾西がお前のことを誘った時点で何となく察しがついてたけどな......どうせ京坂さんのことだろ?」
「知ってるなら、なんで俺を連れてきた?」
「いやぁー、俺アイツと約束しちまったんだよ。尾西が京坂さんにちゃんと告白できるよう、全力で応援するぜって。そしたら昨日の今日で、京坂さんと晴秋が付き合ってる状況になってたわけ。そりゃ尾西もびっくり仰天だろうな」
「太一は京坂さんのことは何とも思ってないのか?」
「俺? 俺は、ああいう高嶺の花は向いてないね。側から眺めてくらいがいちばん楽しい」
「尾西には悪いことしちゃったな......」
「まぁ、アイツも爆恋会に向けて頑張ってたから、不戦敗になるっていうのは残念だが、こればっかりはしょうがないし、誰が悪いとかそういう問題でもないだろ?」
しばらくして、水をもった尾西が戻ってきた。
「よう、尾西、塩ラーメンちょっと食うか?」
「カレーとラーメンて、組み合わせ最悪じゃん」
「はは、それもそうか」
結局、いつもグループを取り指揮ってくれる太一がいても尚、俺と尾西はまともに会話することもなく、午後の授業へと向かった。
−−−ついこの前まで1人でいることが当たり前の日常だったのに......。
急な青春学園モードに突入した俺の生活に、冷や汗が止まらなかった。




