Ep.9 義理の付き合い②
京坂さんとの、義理の付き合いが初めて3週間ほどが経とうとしていた。
恋愛未経験の俺だったが、これといった難題にぶつかることなく(周りからの刺さるような視線を感じるものの)、順調に事は進んでいる気がした......。
というのも、何かあるたびに彼女が事前に用意していた偽デートのプランに則って俺が行動しているだけなのだが......。
偽だとはいえ、全て彼女に任せてしまっているのはなんだが罪悪感があった......。
やはり俺も、何か彼氏っぽいことをするための計画を立てるべきなのか......。
というか、彼氏っぽいてなんだ?
デートってどこに行くべきなんだ?
彼女を喜ばせるもの?
京坂さんが好きなものって、なんだ?
うがぁぁぁっと、昼飯を前に一人思考の渦に悶絶していると、
「よ、晴秋。聞いたぜ? 京坂さんと付き合ってるって」
今日も爽やかな雰囲気を醸し出しながら、ぼっちの俺に近づいてきた太一。
「なんだよ、生憎今は忙しいんだ」
「まぁまぁ、そんな釣れない事言うなって。お前と話がしたいっていうやつが1人いてな。ちょっと付き合ってくれよ」
「......?」
こんな時に話がしたいなんて、一体だれだ。
どう考えても、京坂さん関連としか思えないのだが......。
面倒ごとは避けたい。
「お断りだ。言っただろ? 俺は海を眺めながら飯を食うのが趣味なんだ」
「頼むって、今度ラーメン100回奢ってやるから」
「俺の体を壊す気か?」
どれだけ断っても離れる気はないらしい。
これ以上、話し合っても埒が明かないと判断して、未開封の弁当を持って渋々ついて行くことにした。
「ていうか、どんな風の吹き回しだ? 恐らく校内でいちばんモテるであろう高嶺の花と付き合えるなんて。賄賂でも渡したのか?」
「ばか言え」
むしろ賄賂を渡されたのはこっちだった気がしなくもないが。
「何はともあれ、晴秋の学園ライフに花が咲きそうでよかったよ。お前あのままだったら、卒業式の時には白骨化してそうだったもんな」
「余計なお世話だ。別に1人でいることが苦ではないし、そっちの方が気楽で助かる」
「何言ってんだ、高校生は友達と遊んでなんぼだろ。それに学園祭の前には修学旅行もあるしな」
「......そうだな......。ん? 今なんて言った?」
「え、高校生は友達と遊んでなんぼ」
「その後だ」
「修学旅行だけど......。もしかしてお前、知らなかったとか言わないよな......」
マジかコイツとでも言わんばかりの目で俺をみるな。
「ちなみにいつ?」
「3週間後」
「学園祭は?」
「2ヶ月後だ」
「俺らの学園生活、なんでそんなにハードスケジュールなんだ? ブラックだろ」
「いや、普通じゃね? むしろ3年になったら行事なんてほとんど無くなるし、今のうちに楽しんでおいた方が吉だせ? というより、俺は晴秋が修学旅行の存在を知らなかったことにビビってる」
「多分寝てた」
「バカだな」
ぐうの音もでない。
京坂さんと付き合ってる最中にそんな過酷イベントがあるとは思っていなかった......。
何だか波瀾万丈なことが待ち受けていそうで、食欲がなくなってきた。
もちろん好きな人と近くに入れるっていうのはありがたいことだが、こうも目立つようなイベントがあると、日陰ものの俺からすれば嫌な想像しかできない。
「多分、修学旅行のグループ決めも近々あるから、とりあえず俺らは一緒のグループだな」
「断る」
「即答!? なんでだよ!」
「イケメン陽キャ集団に混ざる気はない」
「そこに京坂さんがいてもか?」
「それは......」
と、話しているうちに、たどり着いたのは食堂だった。
「おい、俺と飯食いたかっただけに呼び出したのか?」
「違う違う、いやまぁ、俺も昼飯も食べる予定だけど、お前に用事があるやつがいるのは本当だって」
ちょうど昼食時なので、室内は混雑していたが、端っこの方で、こっちだと合図を送ってる人がおり太一もそれに気づいて着いていく。
「よ、遅れてすまんな。晴秋が行きたくないって駄々こねてよ」
「別に大丈夫だよ」
既にメニューを取り終えて待機してたのは、尾西だった。
もしかして、尾西が俺に話を−−−?
太一から話しかけられることは幾度ともなくあるが、尾西が話しかけてくる事は滅多にない。
「コイツがどうしても晴秋と話がしたいっていうから」
「そこまで言ってないだろ......。ていうか、楽しみにしてたカレー冷めた。晴秋はお弁当持ってきたんだ」
「まぁ、いつも通り......。ていうか太一、相手が尾西なら早く言ってくれ。変に身構えてしまったじゃないか」
「え、いいだろべつに。んじゃ、俺も弁当買ってくるわ」
と、尾西と俺だけが席に残った。
おいこら、2人だけ残してどっか行くな!
なんだこの状況−−−!
太一と一緒で、尾西もイケメンオーラを放って止まないし、現に近くを通り過ぎる女子達がちらちらこっちを見ている気がした。
もちろん全員、尾西の方を。
「それで、君を呼び出しておいて申し訳ないんだけど」
「なんだよ......」
一瞬で、ピリピリと張り詰めた空気が漂う。
尾西の表情も氷のように冷たく、何かを試すように俺を見ていた。
いや、元からコイツはこんなやつだったか。
「−−−晴秋って、本当に京坂さんと付き合ってるの?」
たった一言。
至って冷静に放たれた一言に、臓器が冷えて気がした。




