第九十七話 ブラッドランス領へ
僕たちジャンク軍は、ウィルクレスト町の中を進み、ブラッドランス領へと接近していった。
ブラッドランス領に進むに連れ、魔獣の数が少しずつ増えていったが、エクサス率いるジャンク・グリフォンの敵ではなく、スムーズに軍は進行していった。
やがて僕たちはブラッドランス領に足を踏み入れることになった。
そこにはもうヒトはいなかった。
町には魔物だけが巣食っていた。
どの住宅にも、商店街のどの店にも、ヒトはおらず、ただ魔物たちが最初から自分たちがそこの住人であったかのように跋扈していた。
そして不思議なことに、ヒトの死体もどこにも見当たらなかった。
「どういうことだ……」
僕は思わず呟いた。
《薄々気づいているかもしれないが、ブラッドランス領のヒト族の住民が丸ごと魔物化させられているようだ》
「そんな…..どうして…..」
《リンネと合流するんだ。このままブラッドランス家の屋敷に向かうぞ》
僕たちを認めて攻撃してくる魔物たちを倒しながら、進軍していく。
やがて、屋敷に向かう途中で、まるで組織されたヒト族の軍のような魔物の群れの一団に出くわした。
ヒトがいないので、ノクティアの魔法を使っても問題なさそうだ。
エクサスのジャンク・グリフォンも臨戦体制をとる。
「待っていたぞ!」
魔物も群れの中心に、ヒト型の存在がおり、声をあげた。古の魔族の類だろうか?
僕たちがジリジリと近づいていくと、その全容が見えてきた。かなり上位の魔物と魔族たちで構成されているようだった。
そしてその中心にいたのは、ガイウス・ブラッドランスーー僕の父だった。
「お父様、これはいったいどういうことですか?」
「ほう、独立して家を捨てた分際でまだ父と呼ぶか。見ての通りだ。古の魔物による軍を組織したのだ」
「なぜそんなことを……」
「ブラッドランス家のために決まっておろう。魔物化した兵士たちは強いぞ。おまえにも勝る武功を立ててやるのだ」
「そんな……」
《領民が疲弊したところで、領地が立ち行かなくなったんだ。そこでおそらくアビスヴォイド教団に唆されたのだろう》
なんてことだ。父はどこまで愚かなのだ。
「おまえもブラッドランス家の軍門に降れ。そうすればより強大な力を得られるぞ」
「力だけを全てだと考えるあなたに従うつもりはありません。僕はもうブラッドランス家の人間でもありません。あなたをウィルクレスト町の、いや、ヴァレンシア王国の敵とみなします」
「まあ、そう言うな。実を言うとマーガレットも我々の手中にある。あの女もずいぶんおまえに肩入れしているようだったが……もし降らぬのなら、あの女も魔物化しておまえと戦わせてやる」
《マーガレットのことは気にするな、ユウマ》
「でも……無事を確認できていないじゃないか」
《仲間を信じろ》
「……わかった」
僕はジャンク領主として決断した。
「僕はあなたの愚行を許さない。ガイウス・ブラッドランス、おまえを討つ!」
「ふふ、いいだろう。では力でジャンク領をブラッドランス家の属国とさせてもらうとしよう。マーガレットも残念だったな、これで公爵令嬢も魔物で俺の支配下となる。ウィルクレスト町は俺のものだ!」
ガイウスの姿がみるみる変貌していく。
額の角が伸び、瞳が充血したかのように真っ赤になり、筋肉が異様な隆起をしていく。
《知性を保ったまま魔物化したのか……いや、これは魔族化か》
「魔族化した「騎士」を舐めるなよ」




