第九十三話 医療
戦場の跡には、大量の魔獣の死骸が残された。
<<素材が大量だな。兵器の増産もできるし、売れば財政も潤うな。防衛戦の醍醐味と言えよう>>
いや、僕は自分の領内に魔獣の死体がたくさん転がってて気分悪いのが先なんだけど……
とはいえ、魔獣の素材は魔素の森にあるジャンク領の重要な資源とも言える。
すでに日が落ちてきていたので、今晩は休み、明日から領民の皆で、素材の回収を行うことにした。
それにしても……
「あの魔獣たちはジャンク領を狙って攻撃してきたんだよね?」
<<ああ、そろそろアビスヴォイド側も本格的に次の動きを始めたということだろう>>
「やっぱり……」
<<今回は幸い怪我人は出なかったが、やはり医療も必要だな>>
「治癒師だね」
<<ダークエルフ族から何人か移住してきてもらう必要があるな>>
翌日、皆に素材の回収をしてもらっている間、僕とアイマとリンネでダークエルフ族の村を訪問すると、ゼルミナが迎えてくれた。
「どうかしたのか?」
「城下町や農地が整ってきたからね、ダークエルフ族の皆にもいろいろお裾分けを持ってきたんだ」
僕とリンネが、それぞれの荷物袋から、米や肉や魔獣の素材を取り出してみせた。
重いものはほとんどリンネに持ってもらっていたけれど。
「それはありがたいが、それだけが用件ではなかろう?」
「はは……そうなんだよね。実はジャンク領も町として発展してきて、ダークエルフ族の人も何人か移住して来られないかな、と思って」
「ダークエルフ族がここを離れることをどれだけ恐れているか知らんのか?」
「……そうなの?」
ゼルミナが呆れたような顔をした。
「ダークエルフ族は外の世界ではひどい差別を受けておるし、虚無の樹も守らねばならん」
「ええ!? ああ、まあそうか……」
「だが、そうじゃな。おまえは差別などない町造りを目指しておるのだろうし、その手腕をちょっと見させてもらうか。多くはここに残るだろうが、何人か連れて行こう」
「? ゼルミナが来るの?」
「いかんのか? どうせキュア系の魔法使いが欲しいんだろう? 私が適任だと思うぞ。その上、攻撃魔法も得意だからな。町の防衛の役にも立てるだろう」
「いや、僕はありがたいんだけど……このダークエルフの村は大丈夫なの?」
「外の者は、中にいる者の許可がなければ絶対にここには入れんし、私も族長として何かしているわけでもない。問題ない」
そうしてゼルミナと2人のダークエルフの民がジャンク領の町にやってくることになった。
とても心強い!




