第九十二話 防衛
城門の上に、エクサスとジャンク・グリフォンが待機した。
魔獣たちの群れはすでに見えていた。
地上からはワーウルフ系、ゴブリン系、オーク系など多彩な魔獣たちが侵攻してきており、上空にワイバーンの群れもいた。
後方には全軍の指揮官のごとく、ドラゴン系の巨大な魔物が翼を羽ばたかせて近づいてきていた。
「こんな大軍見たことないぜ。しかもドラゴンまでいやがる」
エクサスがぼそっと言った。
兵器を使うことで弱い個体は一掃できるだろうが、ドラゴンを含めた上位種の魔獣は手強いだろう。人類最強パーティーと言われるラスティ・ジャンクであっても僕のディストーションを溜めずにドラゴンを倒すのは容易ではないのだ。
「やれるか?」
「ああ、これは楽しそうだ」
エクサスはジャンク・グリフォンのメンバーに指示を出し始めた。
エクサスは、メンバーを兵器ごとに隊を分け、それぞれの兵器に配置した。
まずは魔導蓄積砲には魔力があるヒト族やリザードマンなどを中心とした部隊。粉砕槌には、パワーのある獣人を中心とした部隊、回転連弩には視力が高い鳥人系を中心とした部隊に分けられた。
各部隊は迅速に配置につき、手早く兵器の準備を行った。
「射程圏内に入った。魔導砲部隊、ヘル・サンダーストーム砲発射!」
エクサスの号令とともに、魔導砲から地獄の雷が轟音とともに放たれ、雷の渦を作りながら、空を飛んでいたワイバーンの群れに直撃した。
すると、数百匹はいたかと思われたワイバーンが次々と落下していった。
落下したワイバーンが地上の魔獣たちに直撃し、魔獣の侵攻のスピードが鈍った。
「連弩部隊は残ったワイバーンを撃ち落とせ。魔導砲部隊はヘル・フレイムを地上の敵に放て!」
連弩部隊が矢をミサイルのように次々と放っていくと、まばらに何匹か残ったワイバーンを簡単に撃ち落としていく。
次に起動された魔導砲からは、また凄まじい轟音とともに地獄の火炎が発射され、瞬く間に炎が巨大化していき、地上を焼き尽くしていった。
わずかの間の出来事だった。上空の敵は1匹残らず撃ち落とし、地上の敵も八割以上が倒れていた。
魔導蓄積砲をかいくぐった強個体の魔獣だけが、ゆっくりとした速度で迫ってきた。
魔獣たちは城門の前に集まってきて、体当たりを始めたが、アーレン製造の鉄の門扉は強固で、簡単に開けられるものではない。次第に魔獣の数が城門に溜まってきた。
「よし、粉砕槌投下だ!」
粉砕槌部隊がワイヤーの固定を外すと、巨大な鋼鉄の塊が信じられないほどの勢いで、大量の魔獣たちの頭上に落ちていった。
落ちた瞬間、激しい轟音と地響きが広がった。その後には騒々しかった城門前は完全な静寂に包まれた。
力自慢の粉砕槌部隊がハンマー部分を引き上げていくと、煎餅になった上位種のゴブリンやオークやワーウルフと、血の海が残されていた。
まだ何十匹かの魔獣が残っていたが、その様子を見て迷わず踵を返して逃げていった。このまま生き続けても一生夢に見てしまうのではないかと思った。魔獣よりも僕たちのほうがよっぽど非人道的なんじゃないかと思わされるほどの光景だったのだ。
それまで僕たち(というかジャンク・グリフォン)の戦いぶりを後方で見ていたドラゴンだけは、逃げるなどという選択肢はないようだった。その重い翼を広げて飛翔した。
粉砕槌は避けて、上空から攻めてくるようだ。
「連弩部隊、ありったけの鷲獅子矢を撃ち込め!」
ドラゴン一体に無数の矢が集中的に注がれた。
ドラゴンは鬱陶しそうに矢を払おうとするが、次から次へと放たれる矢は確実にドラゴンに刺さり続けた。
一本の矢が片目に刺さると、たまらずドラゴンはバランスを崩し、落下し、大きな地響きを起こした。
「最後のおいしいところは俺がいただこう。鷲獅子の槍の威力も確認したいからな」
そう言ってエクサスが一人、城壁から降りていき、馬に跨った。
重い城門が開かれ、エクサスが門の外へ出ていく。
騎乗したまま、地上で悶えるドラゴンのもとに駆け寄り、馬上から飛び上がって、ドラゴンの顔面にスキルを放った。
「メテオ・スラスト!」
連弩ですでにグリフォンの爪を大量に食らって弱っていたドラゴンに、鷲獅子の槍でのおかわりの無数の鋭い突きが襲いかかり顔の上半分が跡形もなくなり、ドラゴンは動きを止めた。
時間にして1時間も経たずに、1,000を超える魔獣の大群は全滅した。ジャンク軍と領民に死者は出ず、怪我人すらゼロだった。城門の上で大きな歓声が上がった。
ブリットモア公国の大軍との戦いも兵器があればかなり楽な戦いだったんだろうな、と思った。




