第八話 尾行者
アリアさんから受け取った依頼主の連絡票を手にし、僕たちはギルドの出口に向かって歩いていく。
依頼の詳細を聞くために、まずはコンスタンティン伯爵家を訪ねなければいけない。
「コンスタンティン伯爵家ってどんな感じなんだろう。僕は名前は聞いたことあるけど詳しくは知らないな。ゲセナー侯爵家と何か関係あったのかな。リンネは何か知っている?」
と、リンネの方を振り返ると、何か思い詰めたような表情をしている。
「……うん、知ってる」
「え? ほんと? それは心強いな。令嬢のマーガレット様のことも知ってる? いい人? 僕も男爵家にはいたけど、貴族の中じゃ低い地位だったし、社交的でもなかったから、公爵家なんてちょっと萎縮しちゃうんだよね」
「外に出ましょう。ここではちょっと……」
<<そうだぞ、おまえ、ついさっき秘密保持契約書にサインしたばかりだろうが。誰かに聞かれたらどうすんだ>>
ああ、そうだった。今回は本当にバカでした。
僕たちはそそくさとギルドの外に出た。
外に出てもギルド周辺はまだ人が多く、とりあえずコンスタンティン伯爵家に向かいつつ、人気がなくなったあたりで、訪問前の打ち合わせをしておこうということになった。
<<尾けられているな。ユウマが大声でコンスタンティン伯爵家のことを話すからだぞ>>
「なんで尾けられているなんてわかるの?」
<<俺の音声センサーは優秀なんだ。同じ足音を四人分、ずっとほぼ同じ音量、音質とリズムで感知している>>
「でも尾行されているとしても伯爵家のことは関係ないんじゃ……」
<<いや、ユウマが伯爵家の話をした直後にギルドの中からこの足音が始まっている。俺は念のため警戒していたから間違いない。それとも他に心当たりがあるのか?>>
「いえ、ないです。反省します……すみません……」
「でもどうしたらいいんでしょうか? 依頼自体を妨害しようとしているんでしょうか?」
リンネが言う。まだ話が聞けていないが、リンネには何か心当たりがあるのだろうか?
<<何か都合が悪いことがあるのかもな。襲ってくるようなら応戦するしかないだろう>>
コンスタンティン伯爵家の屋敷は町の中心部から少し外れた丘の上に位置しており、近づくほど人気は少なくなっていく。
僕たちは最大限に警戒しながら進む。
コンスタンティン伯爵家の丘に差し掛かる少し手前で、周囲に人がいなくなり、僕たちは振り返った。
「『ノーブル・エッジ』……」
リンネがつぶやいた。
昨日、僕たちが尾けた冒険者たちだ…まさか尾け返されるとは……