第八十八話 政務官
「そういえば《バリュー・ディスカバリー(価値発見)》で何か見つけてこなかったの?」
チャップが外出したら何か貴重なものを持ってきてくれていないか期待はしてしまう。すでに領民候補を多く連れてきてくれてはいるが。
「一人面白いのがいましてね。呼んでくるんで、ちょっとお待ちください」
住居を物色しようと解散し始めた新領民たちのところに走っていった。
そのまま戻ってこないので、屋敷に戻ろうかと思っていると一人の少女を連れて戻ってきた。
身なりはあまりきれいではないが、利発そうな顔で、その目には何か燃えるような情熱を感じた。
「リュシアと言います。アイマさんに憧れています」
領主の僕じゃないんだね。まあいいけど、何でアイマ?
「この子はすごいんですよ。一度見たものはすぐ覚えますし、難しい算術もこなすんです。それでアイマさんみたいだな、って話をしたらすごく食いついてくるんで、アイマさんの話をいろいろしたんです」
興奮気味にチャップが言った。
「君も路上で生活していたの?」
「はい、父がブラッドランス伯爵家で会計役として働いていたんですけれど、不当にクビにされたので、一家で路頭に迷っていました」
不当にって……
「ブラッドランス伯爵家はもう異常です。正しいことを諫言したらクビにされます。領民ももう限界ですよ」
「そうなんだ……そういう人はここに来てもらったらいいけれど」
「はい、それで私たち一家も来ました。それで、できれば、お屋敷のほうで雇ってもらえませんでしょうか?」
<<いいんじゃないか。数字に強いのであれば、チャップの手伝いをさせてもいいし、お父上が会計の経験があるのであれば、財務の管理もしてもらえるだろう。政務官が加わるのはありがたいな>>
「ありがとうございます! さっそくですが、領民の名簿を作るべきだと思います。家を選ばせるのはよいと思うのですが、勝手に入らせてその後の管理ができていないと税徴収もできないですし、所有権をめぐっても問題が出ると思います」
「ああ、税は当面取る気はないんだ」
「え? 嘘でしょう?」
「いや、本当です」
「どうやって領主様たちは生活していくつもりなんですか?」
「当面は冒険者のときの蓄えとか領主の準備金で何とかなるし、税を取るというより、行政サービスを売る、って形にしようと思っているんだ」
「なるほど、それでも同じことです誰が何のサービスを利用して支払いをしたかどうかの管理も必要でしょう? 私が全員の名前と住居を確認して名簿を作ります」
「ああ、そうだね。それは助かるよ」
あまり厳しい管理はしたくないな、とは思いながらも、領地を持つ以上、避けられないとも思った。
所有権とか、やはり最低限の領地の決まりも必要になってきそうだな。そもそも王国の法律もよく知らないんだけど。
リュシアはその日のうちに全ての領民の名簿と住所を作り終えた。
領主と家臣団も含めて、現在この町には213人、132世帯がいることがわかった。
ちょっとした町になったな、と少し感慨深かった。




