第八十六話 税なしで領地運営はできるのか?
蛮族の一団には、アーレンの建築ショーを見て待っていてもらうことにした。
気に入った家があれば、今日からでも住んでもらっていいと伝えた。
会議室には僕とアイマとノクティアだけ残った。
<<夕方には領民が集まりだすかもしれないな>>
アイマはそう言うが、そんなにすぐ来るだろうか?
それよりも、領民が集まる前に、僕は一つ気になっていたことをアイマに尋ねたかった。
「ところで、税なしだって話をするって言っていたけど、税なしで領地運営ってできるの?」
<<逆に俺は税を取ることによるオーバーヘッドコストのほうが無駄だと思っている。なぜ税など取る必要がある?>>
「いや、だって公共サービスとか運営しないといけないでしょう?」
<<必要なサービスに必要な料金だけ払えばいいじゃないか>>
「領主はサービスに入りますか?」
<<バナナはおやつに入りますかみたいな聞き方するな。人々が必要だと思えば、サービスになるだろうが、世間には、害悪になっている領主が多いからな。あえて払う領民は少ないかもな。ユウマの場合も、領主のユウマというよりは、ユウマのスキルに対して、対価をもらうのがいいだろう>>
僕のパッシブスキルか。確かに自分のスキル効果が何十倍にもなるんだったら、対価を払おうと思ってくれる人も多いかもしれない。だが……
「僕は、何もしなくてもスキルを発動できるから、それに対して対価をもらうのは抵抗があるな」
<<じゃあ、飢えて死ぬがいい>>
「そんな……」ディストーション
<<前も言ったが、がんばらない、がんばれない領民も安心して暮らせるような領地になることを考えろ>>
「皆が僕みたいなスキルを持っているわけじゃない。どうやって彼らに生活を保障すればいいんだよ。税があれば、福祉に回すことだってできるのに」
<<いずれにせよ、まずは領地の基盤を整えることだ。少なくとも土地はおまえの資産ということになっているから、その土地の利用料で少しはいただいていいんじゃないか? 当面はその料金を福祉に使えばいい。ユウマのディストーションを使えばもっといい手も出てくるさ。社会でうまく生きていけない者のディストーションがこのジャンク領では有効に働き、存在するだけで社会に貢献するようなときがくるだろう。もう一段階のジョブ昇格必要だが、今はそのことは考えず、目の前のことに集中すべきだ>>
「よくわからないけど、そうなの? ノクティアはどう思う?」
「知らん。私は自分のことで手一杯だ」
そうですか……
僕は手持ち無沙汰になり、外にアーレンの様子を見に行こうとしたが、すでに屋敷の周りは家が立ち並んでおり、アーレンの姿見えるところにはなかった。
すでに、これは町だ。少なくとも町の容れ物はできているので、あとは人さえ集まれば、立派な町と呼べるようになるだろう。
こんな速さで、町ができていくなんて信じられないな。
あてどもなく、歩いていると、やがてアーレンとリンネを見つけた。エクサス蛮族のメンバーも様子を眺めていた。
リンネが木を伐っていく端からアーレンが家を建てていき、ものの数分で一棟が建っていくのだった。
これはすごいな。建てていくたびにレベルも上がって、まだスピードが上がるのだろうか。
飽きずにその様子を見ていると、すぐに日が落ち始めてきた。
「今日はそれくらいでいいんじゃないかな。屋敷に戻ろう。エクサスたちは好きな家に入ってくれ」
さすがのアーレンとリンネも疲労の様子があったので、もう十分だろう。
そうして屋敷に戻ると、アイマの予言どおり、チャップたちが大量の人々を連れ帰ってきていたのだった。




