第八十五話 黒い影・城壁
「ユウマじゃないか。こんなところまで出迎えに来てくれたのか?」
黒い影は、黒の甲冑のエクサスと、仲間の蛮族たちだった。
敵じゃなくてよかった……
それよりもノクティアとの気まずい会話を中断できたのが助かった。いったんノクティアとの話は忘れよう。
「ああ、いや、狩りをしようと出ていたところだったんだ。でもエクサスたちに会えてよかった。町の予定場所に案内するよ。まだ城壁や家は建て始めたばかりなんだけど」
「そうか、獲物が必要なら、俺たちがいくらでも獲ってくるから心配するな。ジャンク領に帰順すると決めた者たちは恐ろしく強くなっているし、獲物を見つけるスキル持ちも、今まで以上に簡単に大量に獲物を見つけられるようになった」
そういえば、アイマもエクサスたちに狩りはお願いすると言っていたな。彼らに狩りの高い適性があることがわかっていたのだろう。
「それは心強いな」
「ああ、任せておけ。じゃあ、案内してくれるか」
僕たちは来た道を戻っていった。と言っても、僕は道もわからないので、帰りもノクティア頼みなんだが……僕のポンコツぶりにも嫌になってくるな。僕こそ、僕の領地で最も救われるべき存在なのかもしれないな。
町の場所はすぐに分かった。
城壁がすでにできていて、遠目からでも目視できたのだ。
どこまで優秀なんだ、アーレンは……
しかし、城門がすぐに見つからず、城壁沿いをしばらく歩くことになった。
ようやく城門らしきところを見つけると、そこにロズウェルが立っていた。
「ロズウェル、ご苦労様。もう城壁できてたんだね」
「そうや。いつもどおり、アーレンが失敗しまくって始まったんだが、気づいたらものすごい勢いで、城壁ができていってな。今までもいろいろ作ってたから、『万能職人』も相当レベル上がっとるみたいやで。もうリンネと家を作り始めとるで。
エクサスたちも来たか。アイマが話したいやろうから、屋敷に行ったらええで。わしはここを守っとるから一緒には行けへんけど」
「ああ、ありがとう。ロズウェル」
屋敷に戻ると、アイマが会議室で待っていた。
人数が多かったので、エクサスと数名の蛮族のメンバーだけ会議室に入ってもらい、他の者たちは広間で待ってもらった。
<<来たか>>
「ああ、仲間は全員帰順することに同意した。最初は懐疑的なやつらも多かったが、俺たちの異常なスキル効果を見たら、誰も逆らおうと考えるやつはいなくなったぜ。むしろ喜んで帰順することを決めている」
<<そうか、それは良かった。まずは一つエクサスにお土産だ>>
アイマは会議卓に無造作に置かれた槍を指差した。
「俺がもらっていいのか?」
<<ああ、鷲獅子の槍だ。おまえに相応しい武器だ>>
エクサスが槍を手に取る。
「こいつはすごいな。あのグリフォンの爪で作ったのか。すごい鍛冶師がいるんだな」
「すごいなんてもんじゃない。ポンコツでもあるんだけど」
僕は口を挟んだ。
「何だかわからんがありがたい。これで狩りももっと楽になるな」
<<狩りもいいんだが、エクサスたちには他にもいろいろ役割を担ってほしくてな。まずはステータスを見せてもらおう>>
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将軍 エクサス 統99 武92 知87 政72 適性:将軍/騎兵
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「将軍??」
思わず驚いた声をあげてしまった。知らぬ間にエクサスの役職が決まっていたようだ。
<<そうだ。領地を預かった以上、これからは大規模な軍での戦いが必要になる。エクサスのように統率力が高い人材が必要だった。スキルもあるだろう?>>
「お見通しってわけか。戦場全体を俯瞰できる『フィールド・ウォッチ』や、各隊の隊長や隊員に指示ができる『リモート・コマンド』だな」
<<ユウマの「ユー・アー・ジョーク」で把握範囲や同時指示可能数も増えるだろう。これ以上の指揮官は地上に存在しないはずだ>>
「それにアイマの知略があれば無敵じゃないか」
素直にすごそうだと思った。
<<そういうわけで、戦時には戦闘責任者としてエクサスには活躍してもらいたい>>
「ああ、いいぜ。仲間たちも兵士として戦う。対魔獣戦も対人戦も戦闘であれば何でも得意だからな。そうだな、俺の部隊を『ジャンク・グリフォン」と名付けよう」
グリフォンの武器をよほど気に入ったのか。部隊名にまでするとは。
<<ただ、戦争は常に発生するわけじゃない。だから、狩りや工事の手伝いもしてほしいんだ。まだ人手が少なくてな。ただ、人が増えてきたら、また別の問題が出てくる>>
「治安だね」
<<そうだ。最終的には、平時には治安部隊を担ってもらいたい。牧畜ができるようになれば狩りも要らなくなるからな>>
「ああ、何でもいいぜ。住処と食事さえもらえれば何でもする」
<<ああ、それは約束しよう>>




