第八十四話 ノクティアの考え
チャップ、アイク、イサク、ウイクは領民を募りにウィルクレストの町へ、アーレンはアイマと城壁造りに、ロズウェルとリンネはその手伝いと護衛に、それぞれ向かった。
僕とノクティアは狩りに出た。正直、僕は役立たずなので、ノクティア頼りではあるのだが……
狩りだけじゃなくて狩り以外のことも皆にお任せなんだが……
「ユウマ、何か悩みでもあるのか?」
魔素の森を歩いていると、ノクティアがそう尋ねてきた。
「え? なんで?」
「ぼーっとして獲物も何もないところに向かって歩いているからな」
「ああ、うん、ちょっと考えごとをしててね」
「今は私しかいない。話なら聞くぞ」
「……いや、なんか僕って領主なのに役立たずで、皆にすごく助けてもらってるな、と思ってさ」
「ユウマはいるだけで、皆の力になっているじゃないか」
「いや、それもパッシブスキルだから、魔力も消費しないし、何もしなくても効果出ているんだよね」
「それはもっと誇っていいんじゃないか。何もがんばらなくても、人の役に立っているんだからな」
「いや、僕はもっと役に立つようにがんばりたいんだよね……」
ふと、アイマが、「がんばらない、あるいはがんばることができない」人々のことも考えろと言っていたのを思い出した。
もしかしたら、ここに何かヒントがあるのかもしれない。
「いや、ありがとう、ノクティア。話していて、何かが開けそうな気がしてきたよ」
「『いや』ばっかりだな。相手も自分も否定ばかりするのはどうかと思うぞ」
「はは、そうだね、ごめん……そうだ、せっかく二人なんだからノクティアも何か悩みがあったら教えてよ」
「私はユウマたちと会えて、人生が大きく好転したように思うからな。とても感謝している……」
そう言ってノクティアは何かを考えるように言葉を止めた。
「しかし、そうだな。やはり死んだ母と父のことを考えてしまうな」
「ああ、そうだよね……」
「だが、誤解してほしくないんだが、悪いことばかりだけではないんだ。たとえば、種族の違う母と父はどうして愛し合うことになったのだろうと。難しい人生になることがわかっていて、なぜ一緒になろうと思ったのだろう、とかいろいろな」
「種族なんてなんで分かれているんだろうね」
「種族は分かれていること自体は悪くないと私は思うぞ。それぞれ得意なことが異なっているからな。ダークエルフのように魔力が高かったり、獣人のように身体能力が高かったり、ドワーフ族のように手先が器用だったり、魔族のように技術力があったり、ヒト族のようにスキルが使えたりとな。問題はそれぞれが協力しあって、世界をより良くしようとしないことだ。逆に、得意な分野で相手を攻撃しようとしがちなのが問題なのだ。
だから、私はユウマがジャンク領で成し遂げようとしていることが、世界をより良くするために、とても意義深いことだと思っているんだ」
「僕はただ皆で仲良くやれればと思っていただけだけど、そこまで考えてくれていたんだね」
「そう、だから、私は母と父が一緒になったことも、決して間違ったことだと思わないようになった。むしろ、今の世の中が間違っていると思うんだ」
「うん、そうかもしれないね」
「私もそういった伴侶が見つかるだろうかとも考えるようになってな。ユウマのようなヒト族の男だったらいいな、と思い始めたんだ」
「え!?」
ノクティアは真顔で僕を見ていた。その美しい顔で、真っ直ぐと。僕は恥ずかしくなり、何も言えなくなってしまった。
と、そのとき、森の奥から多くの黒い影が現れた。




